始球式で贈られた名前入りの記念球 文字を書いた先生がこめた思い

 全国高校野球選手権の地方大会では、各地で始球式が行われている。広島大会の会場の一つである、ぶんちゃんしまなみ球場(尾道市)では、始球式を務める子どもたちを喜ばせようと、ボールに工夫をこらす人がいる。

 広島大会では毎日のように県内の小学生が始球式にバッテリーで登場し、最後に硬式球をもらうのがおきまりだ。

 19日、瀬戸内海に浮かぶ向島の軟式野球チーム「向東少年野球クラブ」の小学6年生2人が第1試合に登場した。

 投手を務めた松浦渚斗(なぎと)さんと、捕手を務めた高原壮一郎さんは大役を終えた後、もらったボールを見て「他にはないボールでうれしい」と顔をほころばせた。

 贈られた記念球には日付や大会名、対戦カードに加え、自分の名前が刻まれていた。

 この日のカードは総合技術―崇徳。兄2人が総合技術で野球部だったという松浦さんは、ボールを握りながら「もっと総合技術で野球がしたくなった」。高原さんも「大事に飾って、いつでも今日のことを思い出して、野球を頑張りたい」。

 まるでボールに機械でプリントしたようなきれいな文字は、県高校野球連盟理事の岡崎宏紀さん(65)が太さ0・5ミリのボールペンで書いたものだ。1球10分ほどかけて書く。

 高校の英語教師の岡崎さん。長く、生徒が大学へ送る推薦書は手書きだったといい、「同じように丁寧に書いたらボールにもうまく書けた」。

 20年近く、仕事の合間を見つけては、しばしば始球式用のボールに丁寧に明朝体に寄せた字を書いているという。「恩返しって言うとこれくらいしかできないんですよ」

 現在は県立大門に英語の非常勤講師として勤める。定年を迎えるまで監督や部長として硬式野球部の指導に携わった。「少しでも野球人口がプラスになってほしい」。そんな思いで個人で細々と続けてきた。

 「丁寧に書けば、大事にしてもらえて、見返したときに野球の楽しさを思い出してもらえる。ゆくゆく親から子へと野球が伝わってくれればいいなと」

 岡崎さんが担当する県東部の球場では、決まったアナウンスで始球式が始まる。

 「広島県の高校野球がますます発展することを願い、広島代表チームが全国制覇することを願って投球してもらいます」

 少年少女がボールを受け取ったときの喜びは、きっとその夢を近づけてくれる。(平田瑛美)

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