愛媛県上島町にある魚島(うおしま)は周囲約6キロ、名にある通り、漁業の島としての歴史が長い。現在は小型定置網漁や蛸壺(たこつぼ)漁が盛んだ。
『魚島村誌』(合冊版)には、「魚島は縄文時代より東西交通の中継地として航海に従事する人々に重要な役割を果たしていた」とあり、航海の安全を祈る古代の祭祀(さいし)遺跡が見つかっている。朝鮮製の鉄鋌(てってい=鉄器の材料)も出土しており、古来、島の人々が各地と交流してきたことがうかがえる。
恵まれた自然環境での少人数教育
しかし現在は過疎高齢化が進み、人口約130人。子供の数も減り、令和4年度には魚島小・中学校の在校生は4人となった。上島町は、学校存続と地域活性化のため、5年度から離島留学プロジェクト「魚島さざなみ留学」を開始。全国から魚島小・中学校に児童・生徒を受け入れている。「留学」中はICT(情報通信技術)を駆使して学習を進めながら、恵まれた自然環境のなか少人数の利点を生かし、漁業などの体験学習にも取り組む。
島には「留学生」が男女別に暮らす「さざなみ寮」があり、ハウスマスターが寮生活をする児童・生徒のサポートをする。5年度は5人、6年度は7人を迎え入れた。今年度は7人が入寮したほか、親子で空き家などに移り住む「親子留学」の応募も1組あった。
大学院で離島留学の研究を始めた上島町教育委員会の天野裕介さんは、「コンパクトな島、小規模学校だから一人一人が主役になれる。島の行事で自分の役割を果たし、成長する子も多い」と話す。また、今後について魚島総合支所の大林卓也支所長は、「令和10年度に地元の在校生はゼロになる。しかし町として留学制度を続けることは決定済みだ。魚島住民にも反対はない。子供がいることは地域の活性につながる」と継続への意欲を語る。
行政と地域を巻き込み生徒受け入れ
魚島の北西にある弓削島でも、「留学」による地域活性化に取り組む。上島町で唯一の愛媛県立弓削高校では、平成29年度から行政と地域住民も巻き込んだ「弓削高校魅力化プロジェクト」を実施。「ワクワク・チャレンジ・創造のゆめしま海道で夢つなぐ人になる」というキャッチコピーを掲げ、全国から生徒を受け入れる。
同町は、島外から公募で選んだ「高校魅力化コーディネーター」を配置し、学校と地域の連携強化に取り組むほか、教科指導とキャリア学習を2本柱にする公営塾「ゆめしま未来塾」や、学生寮「ゆめしま寮」を運営する。
こうした交流の取り組みは、地元の生徒への刺激ともなるという。町としては、「進学率を上げ、自分の望む進路へ進んでほしい。島に大学や専門学校はないので、一度島を出たとしても、経験を積んで戻ってきてほしい」と、未来の島の姿を描き、種を蒔く。
子供が学ぶ場所を選べる時代、離島創生のカギは教育の現場にも広がっている。
アクセス
魚島へは、因島(広島県尾道市)の土生港から弓削島の弓削港を経由し船が運航。
小林希
こばやし・のぞみ 昭和57年生まれ、東京都出身。元編集者。出版社を退社し、世界放浪の旅へ。帰国後に『恋する旅女、世界をゆく―29歳、会社を辞めて旅に出た』(幻冬舎文庫)で作家に転身。主に旅、島、猫をテーマにしている。これまで世界60カ国、日本の離島は150島を巡った。