無数のサッカー小僧たちを幸福にした浜本敏勝さんのサッカー哲学

 あえて自らを「ばくれ者」と称していた。世間の常識に当てはまらないアウトロー的な存在のことで、時には気性が荒く乱暴な言動をする人間を表すこともあるという。しかし広島サッカー界の「ばくれ者」は大きな慈愛で子供たちを包み込み、個々の才能を丹念に育んだ。逆に「ばくれ者」ならではの自由闊達な発想が、旧態依然とした上意下達型指導に風穴を開け、無数のサッカー小僧たちを幸福にした。

 広島大河(おおこう)FCの創始者・浜本敏勝さんが先月、亡くなった。まだ日本ではマイナーだったサッカーの「自己表現と助け合い」の特性に惹かれ、スポーツの世界が「根性」一色に塗り潰されていた時代に指導者の道を歩み始めた。子供たちにも「我儘ではなく我がまま」をモットーに、思う存分にアイデアを出し合う環境を提供してきた。

「ああせい、こうせい」と押しつけられるのが大嫌いだった。だから「ああしよう、こうしよう」とアイデアを広げられるサッカーを愛した。ピッチ上の神様はボール保持者。誰にも邪魔されずに、自ら判断して次のプレーを選択する。その代わりパスには「ハート・トゥ・ハート」と思いやりを込めるように奨励し、協調性も引き出していった。

 スタッフにも親御さんにも「ノーコーチング」を徹底し「信じているぞ、思い切ってやってこい」と試合に送り出す。また全員を試合に出すために、前後半で全員交代を必須とする8人制のカップ戦を創設。必ず1人残らず試合を満喫させた。