宮城県蔵王町鳥獣被害対策実施隊の佐藤秀一さん(83)=同町遠刈田温泉=が駆除したクマの頭数が今月、500頭になった。有害鳥獣の駆除を目的とした同隊(52人)最年長で、狩猟歴60年のベテラン。「クマの食害をなくそうと頑張った結果」と語る一方、クマが人里に出没する頻度が増え「この数年で駆除のペースが一気に増えた」と共生の難しさに思い悩む。

■もうやりたくないという気持ちもある

 500頭目の捕獲は1日早朝。遠刈田温泉七日原の畑のそばに仕掛けた箱わなに雌のツキノワグマ(約50キロ)がかかり、足かけ57年で到達した。クマはその後も3、5、15日と立て続けに捕獲された。
 人や農作物への被害を防ぐことができたが「かわいそうだから、500頭を区切りに、もうやりたくないという気持ちもある」と漏らす佐藤さん。200頭を契機に仲間とクマの供養塔を設け、折に触れて、独自の供養を続けているという。

 近年、クマの出没が増えたと感じている。200頭目(1989年8月)から400頭目(2019年5月)まで約30年も要したのに、そこから500頭目まで6年余りしかかからなかった。岩手県北上市の女性が自宅でクマに襲われ亡くなるなど、獣害の増加は蔵王町にとどまらない。「クマは本来、臆病な動物。何とか共生できないだろうか」と願う。
 佐藤さんは父親の影響で狩猟を始めた。秋から冬にかけての狩猟期間は銃を持って山に入った。農作物被害があると、実施隊の同僚隊員と箱わなを設置し、毎朝交代で巡回。クマが捕獲されれば隊員同士で連絡を取り合い、駆除した。
 80歳を過ぎ、体力的な衰えなどを感じて銃の免許を返上した。現在は箱わなや、くくりわなで人里を荒らす有害鳥獣に対応する。長年の経験に裏打ちされた知見は他を圧倒しており、わなを仕掛ける場所や、わなの隠し方は若手の手本となっている。

 町によると、昨年度、町内の各実施隊が捕獲したツキノワグマは計10頭(11月15日〜翌2月15日の狩猟期間を除く)。佐藤さんが所属する遠刈田隊が6頭で最多だった。
 大日本猟友会(東京)の佐々木洋平会長(83)=岩手県一関市出身=は「1人で500頭も捕獲するのは並大抵のことではない。大したものだ。(クマによる被害が増える中で)専門的な知識を持つ人がいるのは貴重だ」と話した。
(剣持雄治)