かつて田沢湖(秋田県仙北市)のみに生息し、地元でしか存在を知られぬまま滅びた幻の淡水魚「口黒鱒(クチグロマス)」の標本1体が、東京大総合研究博物館で発見された。魚類図鑑にも載っていない知られざる珍魚で、実物が確認されたのは初めて。田沢湖産のクニマスも2体見つかり、うち1体は世界最古の標本と分かった。京都大名誉教授の中坊徹次さん(75)=魚類分類学=は「クチグロマスとクニマスの関係性や採集時期を知る手がかりとなる。大変貴重だ」と話す。

 クチグロマスの標本は全長29・4センチで、数種類の魚が未整理のまま保管されたガラス容器の中から見つかった。布ラベルが付され、「田澤湖大正五年一月廿日」と書かれていたことから、田沢湖で1916(大正5)年1月20日に採集されたとみられる。