【汐留鉄道倶楽部】JR九州が大正時代に製造された蒸気機関車(SL)8620型(通称「ハチロク」)を使って熊本県などで運行していた観光列車「SL人吉」のラストランから1年以上たった。機関車は2024年11月から人吉駅(熊本県人吉市)で展示保存されているが、50系客車を改造した専用車両3両編成は、その後も臨時列車や団体専用列車に使用されている。ただ、自動車の車検に相当する全般検査(全検)が実施されたのは2016年3月。次の全検を通すのか、廃車となるのかが気になるところだ。
24年8月、この客車を使用した臨時列車「快速あそ」が豊肥線で運行され、個人的惜別乗車と位置づけて熊本―阿蘇(阿蘇市)の全区間(片道49・9㌔)を往復乗車した。編成前後に展望室を備えた黒色の客車3両の両端を、同色のディーゼル機関車DE10がサンドイッチする形の「プッシュプル」方式で運行。往復4時間余りの行程で、阿蘇山の雄大な車窓と、急勾配を克服する目的で設置された立野駅(南阿蘇村)の三段式スイッチバック(Z字状のジグザグの折り返し)を味わった。窓を開けて風を感じながら見る風景は、写真では表現しきれない格別なものだ。
客車外装は、はがれた塗装の補修跡が所々に見られ、晩年のブルートレイン(寝台特急)客車のような痛々しさを感じてしまう。「SL人吉」の文字やロゴも以前のまま。だが、内装はきれいに保たれている。座席は4人掛けボックスシート主体で、木をふんだんに使ってレトロ調に改装し、内外装とも50系の原形をとどめない豪華な仕様。展望室を訪れると、この列車やSL人吉の編成を再現した鉄道模型をテーブルに並べたファンがおり、乗客を楽しませていた。