(17日、第107回全国高校野球選手権広島大会3回戦 広島商4―2英数学館)
自分でも驚くほど、心は晴れていた。
広島商打線を迎えた初回、先頭を四球で出塁させると、犠打と適時打で先制点を許した。
それでも英数学館の藤本勇太投手(3年)は「1点ならオッケー。ここから流れをつくっていこう」と冷静だった。続く打者が味方の失策で塁に出ても、後続を投直に打ち取り、併殺で切り抜けた。
相手は昨秋の明治神宮大会で初出場ながら準優勝し、今春の選抜大会で8強入りした強豪。「広島商に負けたらしょうがない」と腹をくくってマウンドに立った。
投手として成長したと自負する。春の広島県大会では、決勝の広陵戦を含む5試合すべてを完投し、初優勝に貢献。味方の失策があっても勝ち続けた経験から、「チームを救うのがエース」と自覚するようになった。入部直後は128キロだった球速は、148キロになった。
この日も最後まで投げ抜き、打たれた安打は8本。チームは11安打を放ったが、堅守に阻まれた。好機を確実にものにした広島商との2点差を埋められなかった。
試合後、広島商の選手と抱き合い、健闘をたたえ合った。「ナイスピッチャー」と声をかけられると、拍手をしながらベンチに引き揚げた。
黒田元監督は「大会前は投球フォームが定まらず、調子の悪い時があった。それなのに大会初戦から、これまで通りのピッチングを見せてくれた。頼もしかった」とねぎらった。
初めて出場した春の中国大会では、初戦で敗れ、涙を見せていたエース。
「試合前日からワクワクが止まらなかった。自分がやってきたことを出すだけなので、簡単だなと。こんなにすっきりしているのは初めて。力が出し切れて、悔いはない」
最後の夏は、明るい笑顔を見せた。(遠藤花)