パキスタン・カラコルム山脈にある世界第2位の高峰K2(標高8611メートル)の西壁未踏ルートで、アルパインクライマーの平出(ひらいで)和也さん(当時45)と中島健郎さん(同39)が遭難してから27日で1年を迎えた。2人と同じ山岳カメラマンとして幾多の山に共に登った三戸呂(みとろ)拓也さん(40)が2人への思いを語った。

 平出さんと中島さんは最小限の装備と少人数でスピーディーに行動する「アルパインスタイル」で、高峰の未踏ルートを数多く登ってきた。「登山界のアカデミー賞」と呼ばれるピオレドールを平出さんは4度、中島さんは3度受賞した。

 三戸呂さんは2人と20年来の関係だ。3人でネパールの7千メートル峰に立ったことがあるほか、遠征やテレビ局の撮影の仕事で一緒に山に登る機会が多かった。大学時代から知る同学年の中島さんとは、日本テレビ系の「世界の果てまで行ってQ!」の登山企画のサポート役も務めた。

■遭難の可能性 ゼロにできなかった

 K2の難しさは世界最高峰エベレストを上回り、「非情の山」とも呼ばれてきた。24年6月、2人はK2西壁挑戦に向けてベースキャンプに入った。

 偵察などを行いながら、天候の好転を待った。そして7月24日に登攀(とうはん)を始めた。だが、27日午前7時ごろ、標高約7550メートル地点から氷とともに約1200メートル滑落。その後に救助は打ち切りとなった。三戸呂さんは「2人のような優れたクライマーでも、遭難の可能性をゼロにすることはできなかった」と振り返る。

 三戸呂さんも生前の彼らと同じように山に登り、カメラを構える機会が多い。ただ、撮影のための機材を運べば、その分だけ労力と重量が増える。ただ登るだけでも大変なのに、それが事故のリスクを高めるのではないか、とも逡巡(しゅんじゅん)する。

 それでも、三戸呂さんは2人について「山の厳しさや挑戦する美しさ、道を切り開く尊さを勇気や感動として伝え、多くの人を幸せにしてきた」と感じる。だからこそ、自分が「その価値を伝え続けていきたい」。(金子元希)