ホテルバーを心地よい第三の居場所に―。名鉄ホテルホールディングス(本社名古屋市中村区)が運営する「ANAクラウンプラザホテルグランコート名古屋」(名古屋市中区)のバー「スターゲイト」に、首都圏のホテルバーで長年キャリアを積んだ後藤泰宏さんがチーフバーテンダーとして就任した。後藤さんは、訪れる人にとって自宅と職場以外の「サードプレイス」になればと、スターゲイトの改革に乗り出している。真意に触れようと、現地に足を運んだ。(松田理恵子)
「最後に魔法をかけますよ」。白ワインを炭酸で割ったカクテル「スプリッツアー」のグラスを前に後藤さんが発した次の瞬間、レモンの香りがカウンターに広がった。「1990年以降、首都圏のホテルのバーカウンターに立ち続けてきたが、それ以前はホテルマンであり、おもてなしの気持ちでお迎えしている」とほほ笑む。
ホテルバーを気軽に楽しんでもらおうと、7月から「ハッピーアワー」を一新した。スプリッツアーを始め約40種類のアルコールを午後5時のオープンから7時まで半額で提供。就任前は気軽な値段のメニューはなかったが「常連や宿泊客だけでなく、ホテルバーの良さをもっと広く知ってほしい」と決断した。ちなみにスプリッツアーのハッピーアワーの価格は800円。ドリンクに合う軽食も用意した。
ハッピーアワーの原点は、東京・日本橋のホテルバー勤務時代に経験したバブル崩壊という。兜町の活気を取り戻したいと同様の企画を始め、ビジネスパーソンをホテルバーに呼び戻した自負がある。「初めての地である名古屋でもカラーを打ち出したい」と、静かに意欲を燃やす。
後藤さんは、日本ホテルバーメンズ協会(HBA)が主催するカクテルコンペ「HBA創作カクテルコンペティション」の優勝経験者で、ソムリエの資格も持つ。「カクテルとともにホテル30階の眺望をひと時、楽しんでもらいたい」。カクテルシェーカーを手に、また静かに笑みを浮かべた。