Text by 常川拓也
Text by 今川彩香

物語に身を預ける90分、地図を広げるように、映画を通して世界を見てみよう——。映画批評家、常川拓也が映画作品を通して社会を見つめる連載コラム「90分の世界地図」。第2回目にスポットを当てるのは、ショーン・ベイカーの作品だ。監督のみならず、脚本、製作、編集にまで携わった『ANORA アノーラ』(2024年)が、『第97回アカデミー賞』5冠に輝いた快挙がまだまだ記憶に新しい。しかしなぜいま、ショーン・ベイカー? というのも、現在『ショーン・ベイカー 初期傑作選』として、日本初公開の4作品が全国の劇場で上映中、もしくはこれから上映される予定なのだ。


『ANORA アノーラ』は、ニューヨークのストリップダンサーがロシア人の御曹司と結婚したことで大騒動に巻き込まれる……という物語だったが、常川はショーン・ベイカーの作品を振り返り、「ハリウッドやブロードウェイなど一見華やかな響きを持つ街のすぐそばで疎外され、不当な烙印を押されたマイノリティに一貫して焦点を当ててきた」と指摘する。『初期傑作選』に含まれる『テイクアウト』と『プリンス・オブ・ブロードウェイ』では不法移民の苦境を、『スターレット』では偏見と差別に晒されるセックスワーカーを描いている。


連載第1回目では、タリバン政権から逃れたアフガニスタン難民の日常を描いた映画作品から、アメリカ社会の周縁に追いやられた人々について記した。今回も、ショーン・ベイカー作品を通して見えてくるのは、華やかな世界から追いやられた……ないしアメリカンドリームが朽ち果てたような場所にいる人々だ。約8年前に来日したショーン・ベイカーにインタビューした際の記憶を辿りながら、ショーン・ベイカーの世界への眼差しを紐解いていこう。