長崎市北西部、潜伏キリシタンの歴史が息づく外海(そとめ)地区・出津にある「出津農楽舎(しつのうらくしゃ)」は、地元の伝統食かんころ餅が味わえるカフェ&ショップです。素朴な甘さにほっと癒やされるかんころ餅は、じつはこの地域で昔から親しまれてきたローカルフード。定番の炭火焼きのほか、チーズをのせたグラタン風の「チーズ焼き」やバターでこんがり焼いてバニラアイスをトッピングした「バター焼き」など、ここでしか出会えないアレンジメニューも楽しめます。
かんころ餅と潜伏キリシタンの歴史が息づく外海

長崎市街から車で約50分、外海地区の出津集落に「出津農楽舎」はあります。ここは「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」として世界遺産にも登録されている、静かで趣のあるところ。人気の道の駅「夕陽が丘そとめ」からは車で約5分の立地です。

2022年にオープンしたこのお店は、外海地区に代々伝わるかんころ餅の文化を後世に継承したいという想いから生まれたお店。出津出身の舎長・杉山和利さんがさつま芋やもち米の栽培から加工までを一手に担い、カフェ店長の千晶さんがかんころ餅を使った創作メニューを次々と考案し、その魅力を広く発信しています。
かんころ餅といえば、長崎県五島地方の郷土菓子として有名です。が、ここ外海でも古くから地域に根ざしたローカル食として親しまれてきました。

その起源は? 「かんころやかんころ餅の起源には諸説ありますが、じつは外海が発祥ともいわれているんですよ」。そう語ってくれたのは舎長の杉山さん。自家農園での作業や竈(かまど)の手作りなど、日々DIYにも励んでおり、日焼けした笑顔が印象的です。
その話によると、外海は平地が少なく、かつては米が貴重だったことから、生のさつま芋を薄くスライスして天日干しした「かんころ」を保存食としていました。やがてもち米を加えた「かんころ餅」が誕生。潜伏キリシタンが五島へ移住する際に、かんころづくりの製法を伝えたことにより広まったのではないかとのことです。
地元の食文化を受け継ぐ「出津農楽舎」のあたたかいこだわり

お店は出津の山里の、薄くて小さな温石石(おんじゃくいし)を無数に積み重ねた小高い位置にポツンと佇んでいます。
店内はウッディな落ち着いた空間で、一枚板のテーブルや伝統的な石積みのカウンターが目を引きます。
ここでしか味わえない「かんころ餅」の世界

メニューは、食事からデザートまで、オールかんころ餅を使用したオリジナル尽くし。まず最初の一品目は、ぜひ定番の「かんころ餅の炭火焼き」をどうぞ。卓上の七輪で香ばしくあぶって味わうスタイルで、シルクスイートや紫いもなど、品種ごとの風味の違いを食べ比べできます。
もちろん、主役のかんころ餅の原料は無農薬の自家栽培のものを中心に、信頼できる産地から選りすぐった上質なさつま芋を使用。もち米は合鴨農法による自家製米と九州産をブレンドし、甘みにはコクのあるきび砂糖を使っています。

欲張りに、あれこれ試したい人には、「かんころ餅づくし御膳」がおすすめです。ブルーチーズとミックスチーズ、生クリームを添えてオーブンで焼いたグラタン風の「チーズ焼き」や、バニラアイスを添えて蜂蜜を垂らした「バター焼き」など、自由な発想で和洋のアイデアを取り入れたアレンジメニューがワンプレートにのせられて供されます。さらに炭火焼きかんころ餅2枚とご当地麺の「ド・ロ様そうめん」を使ったスープもセットになっていて、満足度◎。

かんころ餅は、おみやげとしても購入可能です。紅はるかや安納芋、ゆうこうという地元産柑橘を練り込んだものなど、常時4〜5種類をそろえています。甘さ控えめがお好みの方には、砂糖不使用の「甘薯の極み」が好評です。
外海の風を感じる、テラスの空中席

屋外には、秋のかんころづくりの時期に使っていたさつま芋を干す網棚を、そのまま活用したテラス席があります。足元が網状になっていて、その下では鶏たちが餌をついばみながら、動き回る様子が眺められます。外海の穏やかな風を感じながら、開放感たっぷりののどかな時間が過ごすのにぴったり。

かんころ餅づくり体験は通年、天日干しによるかんころづくり体験は秋限定で受け付けています。ゆったりとした時間が流れる出津農楽舎で、手仕事のぬくもりにふれながら過ごすひとときは、きっと心をほぐしてくれるはず。
周辺には世界遺産に登録された潜伏キリシタン関連のスポットも数多く点在しています。また、国道202号は「長崎サンセットロード」と呼ばれる絶景のドライブルート。出津農楽舎を目的に訪れるのはもちろん、外海の歴史と自然を探訪する旅の途中に、ちょっと足をのばして立ち寄ってみるのもおすすめですよ。