■「一汁一菜」の意味

 土井さんは、「食事」という、料理して食べるという人間にとって不可避の行為(H・アレントのいう「人間の条件」)を実現するのが「一汁一菜」だと話す。

「一汁一菜とは汁飯香、つまりご飯と味噌汁、漬物ですが、味噌汁を具沢山にすればおかずの一品を兼ねるので、ご飯と具沢山の味噌汁だけでもけっこうです。これが日常の慎ましい暮らしの食事のスタイルです。一汁一菜なら料理をできない理由は無くなります。ご飯さえあれば家に帰ってから、10分もしないうちに温かい味噌汁が食べられて、さっと片づける。『料理する』を端折って食べるだけでは食事になりません。料理して食べるという関係が暮らしにちゃんとあることが大事です」

■料理して食べる重要性

 一人暮らしであっても、料理して食べることは自分を守ること。自立につながると土井さんは言う。料理は、自然と食べる人の間にあって、両方を大切にすること。「家族が料理して家族が食べることも含めて、料理は自立です」とも。

「この列島の人々はお天道様とまっすぐつながって生活をしてきました。食文化はその土地の気候風土に生まれたのです。この土地に生まれた食材を先人に倣って料理する土産土法。料理をしようと思えば、自然を見て自然を思えば何を料理するかを教えてくれます。調理がはじまると、家族の方を見て時々に必要な工夫をする」

■今朝はパンを食べました

 とはいえ土井さんは、現代の私たちは米だけを食べているわけではなく、味のしっかりついた外国料理や便利な加工食品も食べている。「米離れ」と言われて久しいが、家計における支出(金額)は、すでにパンが米を上回っている。パンを作る小麦は、ほぼ海外からの輸入に頼っている。そんな点も指摘する。土井さんの感覚は柔軟だ。

「私も今朝はパンを食べました。パン食はすでに定着しています。しかし、私たちは何を食べるべきかを考えるべきですね。カレーを作る時は、軽いタイ米のご飯を炊きます。タイ米などの輸入米は日本と同じ米とは考えない、それぞれ別の商品です」