2025年7月2日、ステランティス・ジャパンは日本市場向けに新型「プジョー3008」を公開した。
“3”が付くのにプジョーの次世代フラッグシップ?
3008はいわゆるCセグメント、ゴルフ・クラスに属する5人乗りのSUVであり、この新型は2008年登場の初代から数えること3世代目となる。

プジョーの命名方法は原則的に真ん中に0を配する3桁数字をハッチバックやステーション・ワゴン、セダンなどの通常のシリーズに用い、4桁数字はクロスオーバー・タイプであることを示している。通常であれば3008は308の派生モデル、となるはずで、ラインナップでは中核に位置する。

しかし興味深いことに輸入元のステランティス・ジャパンでは3008を“次世代のフラッグシップ・モデル”と表現している。数字がさらに上位の408も現時点ではラインナップとして存在するにも関わらず、である。

どうやらこれは、3008が最新のC/Dセグメント用プラットフォーム、STLA-Medium(ステラ・ミディアム)を初めて採用したモデルなのが理由のようだ。STLA-Mediumは長らくプジョー/シトロエンを含む各車で使い続けられ、改良を重ねてきたプラットフォーム、EMP2シリーズの後継だ。

この新型プラットフォームは内燃エンジンはもちろん、床下に大容量バッテリーを納めるBEV(電気自動車)にも対応している。

サスペンション形式は前がマクファーソン・ストラット式、後ろがトーションビーム式。今後は3008の兄貴分であり、7人乗りの設定もある、いわばロング版ともいうべき新型5008をはじめ、新型シトロエンC5エアクロス、DS N°8(いずれも日本市場には現時点で未上陸)、そしてランチアやアルファ・ロメオも用いる予定となっている。

残念ながらシトロエンのC5 Xは後継車の予定がないと噂されており、その兄弟車の408も先行きは未定だ。おそらく今後主役になることは間違いないSUVのシリーズ、つまり3008を新型5008とともに、ひとまず旗艦として位置づけておく、ということだろうか。
これからのプジョーの顔
3008の新しさは、その顔つきからもひと目で理解できる。現行のプジョー208や308、408との共通性を感じさせながらも、フラットな今どきの中央のエンブレムに対して、ぎゅっと焦点が定まっていくような、不思議な造形になっているからだ。

具体的には、細長い左右ヘッドライトを黒いストライプで結び、そのライト内部とすぐ下にプジョーのアイデンティティとなるライオンの三本の爪を模したLEDデイタイム・ライトを配置。

そしていちばん目につくマスク中央部に向けて、グラデーション状にフレームのない緻密なグリッド・パターンを細かく刻んでいるのである。

この従来からの三本爪と、新たなグリッドの組み合わせが、今後のプジョーの顔となっていくのだろう。

サイド・ビューもまた新鮮さがある。プジョーとして初となるウインドウ・モールが表から見えないような設計をはじめ、緩やかに下がるクーペのようなスタイルのルーフ・ラインと対照的な、とびきりシャープなリア・クォーター・ガラス部の造形など、408のスタリングをさらに一段階進めたような印象を受ける。

また、前後ドアを貫くストレートなプレス・ラインや、樹脂サイド・モールの形状を工夫することで、車体下部の厚みを薄めることに成功している。

なお、3008が装着する19インチ・ホイールの名称はなんと“YARI(槍)”なのだそうだ。命名の由来になったのは長野・北アルプスの槍ヶ岳。日本固有の名称を車体色などに用いる手法はジャガー・ランドローバー・グループなども行っていたが、3008のスポークの光沢は、確かに鋭い槍の先をイメージさせる。
外観同様に変化が大きな内装
先代の3008に対し、顔つきとともに大きく変わったのはインテリアの印象だろう。従来はセンターの液晶パネルとドライバー正面の液晶メーター・ユニットは分離していたが、新型は21インチのパノラミック・スクリーンを採用することで両者を一体化している。

いっぽうステアリング・ホイールの上からメーターを視認する、近代プジョーの“i-Cockpit”コンセプトは踏襲しており、ステアリングは小径で、しかも先代よりさらに上下方向が狭い楕円形となっている。

現行プジョーはすべてこの仕立てなので選択の余地はないのだが、好みが分かれる部分にはなるだろう。

センター・コンソールも左右非対称とし、かつ助手席側と運転席側に段差を設ける造形はやはり先代3008を踏襲するが、より複雑かつシャープな仕上がりになっている。

特に助手席側から大胆なまでに斜めにセンター・コンソールへと繋がる造形と、そこに配置されるアナログのスイッチなどは、正直、質感もセンスもステランティス・グループ内で上位のプレミアム・セグメントに位置するはずのDSシリーズにも負けていないな、と思った。
まずはマイルド・ハイブリッドが上陸
真新しいSTLA-Mediumプラットフォームに組み合わせられる日本仕様のパワーユニットは現状一種類のみ。同じステランティス・グループに属するフィアット600やアルファ・ロメオ・ジュニアでお馴染みの1.2リットル直列3気筒ターボ・ユニットに、6段デュアルクラッチ式自動MT内蔵式の48Vモーターを組み合わせたマイルド・ハイブリッドである。システムの最大出力は145psだから、先行して上陸した両者と、まったく同じスペックだ。

ただし変速機のギア比は、Bセグメントに属する600やジュニアに対してひとまわり大きな全長×全幅×全高=4565×1895×1665mmという車体サイズと、やはり1300kg台に収まるそれらに対して1620kgと重量がけっこうかさむためか、かなり変更されている。WLTCモード燃費も600、ジュニアはともに23km/リットル以上となるが、3008は19.4km/リットルに留まっている。

ちなみに欧州向けには1.6リットル直列4気筒ターボ+モーターのプラグイン・ハイブリッドの設定もある。

床下に大量の三元系リチウムイオン電池を載せるBEVの「e-3008」については、やや遅れるものの、2025年内の上陸を予定しているそうである。

発表会場では、プジョー・ブランドの電動パワートレインに関するデザイン・エキスパートであるリドゥアン・ハバーニ氏が来日し、プレゼンテーションを行った。

彼はすでに19年にわたってハイブリッドに携わっているという。担当範囲はパワートレイン全体で、仕様を定義付け、システムを構築することだとか。壇上ではその機構や効率性について触れ、ハイブリッドの設計はいかにモーターでの走行時間を長く取るか、また回生ブレーキの精度をいかに高めるかが重要だと語り、この1.2リットルのマイルド・ハイブリッドの主目的はCO2排出量の20%の削減にあった、とまとめた。

その後グループ・インタビューで彼と話す機会があったのだが、マイルド・ハイブリッドのシステムは、バッテリーの搭載位置や容量などの違いはあるものの、基本的には他ブランドのものも含め、まったくハードウェアは同一だという。また設計当初から様々なプラットフォームに対応できるようにしていたそうで、これが彼にとって一番のチャレンジだったそうだ。

さらに当然ながら、ハードウェアが同じとはいえ、搭載するプラットフォームごと、車体ごとにマイルド・ハイブリッドはソフトウェアによるキャリブレーションは行われているという。さらも仕向地に合わせての変更も実施されており、日本の燃費基準に適合させるための調整も行っている。

もっとも重要で、かつ興味深かったのは、たとえハードウェアが共通でも、制御や味つけについてはブランドごとに、完全にそれぞれ独立しているという点である。

アルファ・ロメオなど他のブランドについては正確に把握していませんが、と彼はまず断った上で、プジョー独自のセッティングについて答えてくれた。

「鍵になるのは“ドライバビリティ”です。設計時にもこれは議論となりました。ソフトウェアで調整したんですが、加速度と応答性、つまりアクセレレーターを踏んでから、車輪にトルクがかかるまでのレスポンス、反応時間が指標になりました。つまりペダルを踏んだ時の気持ち良さを得るために、ペダルと加速度の関係を変えるわけです」

これに関連するもう1つのコメントが、輸入元のステランティス・ジャパン代表取締役社長、成田 仁氏によるものだ。

日本においてプジョーは2025年の春から新たなブランド・コンセプト“Serious about pleasure(シリアス・アバウト・プレジャー)”を掲げている。

これをストレートに訳すなら「心からの歓喜に向き合う」という感じだろうか。

「本当にプジョーにぴったりの言葉です。まずデザイン。外から眺めても良し、乗り込んでも良し、触れるたびに喜びを感じることができます。さらに乗ってみれば、クルマとしての基本がしっかりしている。運転する喜びがある」

成田さんによれば、それはずっと受け継がれてきたもので、かつて自分はじめて新車で購入したマニュアル・トランスミッションのプジョー306XSiや、その後乗り継いだ306ブレークでも感じていたことだ、という。

成田さんは、まだSTLA-Mediumプラットフォーム車には乗っていないけれど、と前置きした上で、フィアット600やアルファ・ロメオ・ジュニアにも試乗し「それぞれのアイデンティティの違いについて、適切な表現がなされている」と語った。

「もちろん昔ほど尖った形ではないかもしれませんけれど(笑)、乗って頂ければ分かります。ブランドそれぞれがこだわりを持って味つけをしているのが、今のステランティスのクルマたちです」

ハバーニさんが煮詰めたというプジョーならではのマイルド・ハイブリッドの制御が、3008のドライブ・フィールをどう他のブランドと差別化しているのか。

かつてのプジョー・オーナーである成田さんも納得する運転する喜びや、適切な表現とは、はたしていかなるものなのか。

そこが一番の注目といえるだろう。

最後に3008のグレード展開について触れておこう。装備がシンプルな“アリュール・ハイブリッド”、前席にヒーターや電動調整機構なども備わる“GTハイブリッド”、そしてアルカンターラ素材がシート中央に採用された“GTアルカンターラ・パッケージ・ハイブリッド”の3種類で、価格はそれぞれ489万円、540万円、558万円となる。

文=上田純一郎(ENGINE編集部) 写真=ステランティス・ジャパン/ENGINE編集部

(ENGINE Webオリジナル)