2025年モデルから、ラインナップをターボ、ターボSE、V6の3つに改めたロータス・エミーラ。中でも注目の新たに加わった最速モデル、ターボSEの試乗車の準備ができたと聞いて、さっそく借り出した。
ロータスの進化ぶりに驚く ロータスに乗るのは何年ぶりだろう。最後に乗ったのはエヴォーラだったか、それともエリーゼかエキシージだったか、思い出せない。けれど、いずれにせよ今回、最新のエミーラ・ターボSEに乗って、私の記憶の中のロータスからの進化ぶりに仰天したというのが正直なところだ。

私の記憶の中に一番鮮明に残っているロータス、それはこの雑誌の創刊当時に長期リポート車として編集部にあった初代エリーゼ111Sで、初めて見た時には、まるでレーシングカーがそのまま市販車になったかのような、剥き出しのアルミ・バスタブにFRPのボディを架装しただけの簡素なつくりに呆気にとられたものだ。

乗ってみると、見た目通りの原始的な乗り味で、脚は硬く突き上げも凄かったが、車重が1tもなかったから、とにかく軽快感が半端ではなく、コーナーでステアリングを切り込んでいくと、そのままその場でクルクル回ってしまうのではないかというくらいよく曲がるのに開いた口が塞がらなかった。

ところが、このエミーラときたらどうだろう。ボディがふたまわりくらい大きく立派になり、デザインも洗練されて、もはやスーパーカーの領域に入っていると言っていいようなオーラを放っているではないか。

ドアを開けると、そこにはアルカンターラとレザーをふんだんに使ったスポーティにしてゴージャスな内装が拡がっている。あの剥き出しのアルミはどこにいったのかぁ、と叫びそうになるが、実のところ、このエミーラだって、アルミ・バスタブにFRPのボディを架装したつくりに変わりはないのだ。それなのに、跨いで乗り込むのも大変だったアルミの太く高いシルはなくなり、アルカンターラで覆われてやや細く低くなった上品な敷居に姿を変えていた。

けれど、運転席についてみると、見た目は立派になっても、驚くほど低い着座位置や、両側にフェンダーの嶺があるほかは、すぐ目の前に路面が拡がる風景は昔と同じだった。

やっぱりこれはロータスだ、と頷きながらスタート・ボタンを押し、背後に横置きされるAMG製2リッター直4ターボに火を入れて、走り始めた。
重厚になり、洗練された乗り味 最初に気づいたのは、昔より乗り心地が格段に良くなったことだ。決して脚が柔らかいわけではなく、むしろ1.4tを超える車重を受け止めるべく固められているはずだが、しっかりと動いて路面からの突き上げを吸収してくれるから、不快感がないばかりか、全体として引き締まった重厚な乗り味になっている。

それはステアリング・フィールやペダルの踏み心地、さらに言えば音や振動も含めて、運転に関するすべてにわたって言えることで、もはや原始的というのとはかけ離れた、洗練された乗り味を持つスーパーカーの領域に入っていると思った。高速道路での直進安定性の素晴しさも、ワインディング・ロードでのピーキーではない節度あるコーナリングの気持ち良さも、非の打ち所がない。

そして、その乗り味に大きく貢献していると思われたのがAMG製の2リッター直4ターボ・エンジンで、今回、新たに設定されたターボSE(ロータスではお馴染みの名称でスペシャル・エクイップメントの略)では、これまでのターボより41psと50Nm増強された406ps、480Nmのパワー&トルクを発揮するものになっているという。このエンジンは低回転域からしっかりと太いトルクが出ていて扱いやすいし、回したら回したでモリモリとパワーが湧き出して、驚異的な加速を見せる。内燃機関の時代の頂点にある傑作エンジンのひとつであるのは間違いないだろう。

さて、それでは、すべてが洗練されてロータスの味が失われてしまったかというと、そんなことはない。走っていると、洗練された重厚な乗り味の中にも、ロータスならではの軽快感が常にチラリチラリと顔を覗かせている。たとえば、ステアリングを切り込んだ時に、決してピーキーではないのだけれど、スーッとクルマごとコーナーに入っていくような感覚はやはり独特のものだ。内燃機関の時代の掉尾を飾るロータスとして、この重厚感と軽快感のさじ加減は絶妙だと私は思った。

文=村上 政(ENGINE編集長) 写真=望月浩彦
■ロータス・エミーラ・ターボSE 駆動方式 ミドシップ横置きエンジン後輪駆動  
全長×全幅×全高 4413×1895×1226mm  
ホイールベース 2575mm  
車両重量(車検証) 1470kg(前軸570kg、後軸900kg)  
エンジン形式 直列4気筒DOHCターボ  
排気量 1991cc  
ボア×ストローク 83.0×92.0mm  
最高出力 406ps/7200rpm  
最大トルク 480Nm/3000-5500rpm  
トランスミッション デュアルクラッチ式8段自動MT  
サスペンション(前) ダブルウィッシュボーン/コイル  
サスペンション(後) ダブルウィッシュボーン/コイル  
ブレーキ(前後) 通気冷却式ディスク  
タイヤ(前/後) 245/35ZR20/295/30ZR20  
車両本体価格(税込) 1804万円

(ENGINE2025年8月号)