電気自動車にほんの少し遅れて、600にマイルドハイブリッド・モデルが追加された。待ってました。と思わず言っちゃう期待のイタリア車が登場。
台風の目になりそうな1台! 電気自動車一本槍だった欧州の自動車メーカーで、内燃エンジンを見直す動きが加速している。EVの市場が踊り場にあるのと中国製EVの大攻勢のためだが、要は電気もやるし内燃エンジンもやろうというわけで、おかげと言ってはなんだが、なかなかEVが広がらない日本では、輸入車の選択肢も増えて、俄然、市場が面白くなってきた。

なかでも台風の目になりそうな1台と言えば、この600ハイブリッドだろう。なにしろこのクルマ、見た目のインパクトが凄い。その最大のポイントはもちろんヘッドライトだ。目ヂカラとはよく言ったもので、目があうと強烈な印象が残る。

ちょっと怒ったような感じは、奈良美智が描く女の子にそっくりだ。カワイイでしょ、でもただカワイイだけじゃないわよ、と言ってるみたいに思えるところが面白い。

この目のデザインは、そもそも500のEV版として登場した500eから拝借したものだが、カワイイけどEVだし、値段も高くてと500eの購入をちゅうちょしていた人や、Bセグメントのモデルとして人気があった500Xの後継車を待っていた人にはピッタリの車種だろう。


首都高速では意外とスポーティ 今回、日本市場に投入されたのはラ・プリマというグレードのモデルで、価格は419万円だ(ほかに365万円の素のモデルもあるが、こちらは受注生産)。ドライブ・トレインは、新開発の1.2リッター3気筒のガソリン・ターボとモーターを内蔵したデュアルクラッチ式の6段自動MTが組み合わされたマイルドハイブリッドとなっている。

試乗は都心の街中と高速道路を中心に行った。乗ってまず感じたのは走りがスムーズなことだ。エンジンは1.2リッターの3気筒だが、モーターのアシストがある走り出しは、トルクも十分あってもたつくようなことはない。街中でもスイスイと流れに乗ることができる。

意外だったのは、回生ブレーキが思った以上に強力なことだ。アクセル・ペダルをオフにしたときは、ここぞとばかりにエネルギーを回生して電力を蓄え、なおかつ積極的にモーターを駆動する。

短時間だが30km/hまでならモーターだけで走れることを謳っているが、街中で普通に走っていても負荷に応じて隙あらばエンジンを止めてモーターで走ろうとする。体感的にはほとんどわからないが、メーター表示をエネルギーフローとタコメーターに切り替えると、見えないところでこんなに一生懸命働いてたのね、と思わず笑ってしまった。

回生ブレーキの強さは最初のうちこそ気になったが、慣れてしまうとこれはこれで運転しやすいことに気づく。一定の車間を低速で走っているときなど、前走車との車間調整もほとんどワンペダルでオーケー。なかなか賢くプログラミングされていて、高速道路のジャンクションのコーナーに進入するときはアクセル・コントロールが楽しくてニヤリとしてしまった。EVのいいところは積極的に取り入れて、走りに活かそうとしているところは、やっぱりイタリア車だなと思う。

今回は、ワインディングは走れていないが、首都高速では意外とスポーティに走れるハンドリングの素性の良さをうかがい知ることができた。応答遅れのないリニアな操舵感は、実はこのクルマの特筆すべきポイントのひとつだと思う。

さて今回試乗したこの600ハイブリッドのラ・プリマだが、内装を見ても安っぽいところがない。白地にターコイズのパイピングや600の刺繍、フィアットのロゴがエンボスされたエコ・レザーのシートが標準装備でお洒落だし、2本スポークのステアリングや丸いメーターフードも個性的だ。こういうクラスレスなクルマは日本車にはなかなかない。

これで友達も家族も乗れて、荷物もそこそこ積めて、安心してレジャーにだっていける。今回の燃費は車載コンピューターで20km/リッター弱。WLTCモードだと23.2km/リッターというから燃費もいい。しかし、いちばんの魅力は輸入車がみんな高くなったなかでの419万円という手が届く価格だろう。見ても乗っても、これなら毎日がハッピーだ。こんなクルマを待ってました。

文=塩澤則浩 写真=茂呂幸正

(ENGINE2025年8月号)

■フィアット600ハイブリッド・ラ・プリマ
駆動方式 フロント横置きエンジン+モーター  
全長×全幅×全高 4200×1780×1595mm  
ホイールベース 2560mm  
トレッド(前/後) 1535/1525mm  
車両重量 1330kg  
エンジン形式(モーター) 直列3気筒DOHCターボ(交流同期式)  
総排気量(モーター) 1199cc(6.3kW)  
最高出力(モーター) 136ps/5500rpm(16kW)  
最大トルク(モーター) 230Nm/1759rpm(51Nm)  
トランスミッション デュアルクラッチ式6段自動MT  
サスペンション(前) ストラット  
サスペンション(後) トーションビーム  
ブレーキ(前/後) 通気冷却式ディスク/ディスク  
タイヤ(前後) 215/55R18  
車両本体価格(税込) 419万円

(ENGINE Webオリジナル)