クルマを動かすために必要な燃料は、ガソリンまたは軽油(ディーゼル)が主流だ。これらの燃料は、実は季節によってわずかに違いがあることをご存じだろうか。今回は、夏と冬で違いがある燃料について解説するとともに、燃料の違いが顕著なディーゼル車に乗っている筆者のリアルな実感を紹介する。
ガソリンも軽油も夏用と冬用がある? ガソリンは、JISの規格により、オクタン価96.0以上の「第1号」「第1号(E)」、オクタン価89.0以上の「第2号」「第2号(E)」の4種類に分類される。

ガソリンスタンドで目にする「ハイオクガソリン」や「プレミアムガソリン」は、オクタン価96.0以上となる第1号。「レギュラーガソリン」は、オクタン価89.0以上となる第2号だ。

ちなみに、オクタン価とは、自己着火のしにくさやノッキング(異常燃焼により発生する金属音を伴う異音や振動=ノッキング)の起こりにくさを示す指標。この数値が高いほどノッキングが起こりにくく、パワーを出しやすいという特徴がある。

また、輸入車の多くがハイオクガソリン指定となっているのは、日本のレギュラーガソリンに該当するガソリンのオクタン価が95.0程度であるためだ。

さて、話を夏用と冬用のガソリンの違いに戻そう。ガソリンは、夏と冬で「蒸気圧」に違いがある。この蒸気圧とは、ガソリンの揮発性(蒸発のしやすさ)を表す指標で、数値が高いほど揮発性が高くなる。

ガソリンの蒸気圧は、夏用の上限が上限は65kPa、冬用の上限が93kPaだ。言い換えると、夏用のガソリンの方が冬用のガソリンより蒸発しにくくなっているということだ。
ガソリンはレギュラーとハイオクの2種類だが軽油は5種類もある ガソリンスタンドにある給油ノズルを見ると軽油(ディーゼル)は1種類しかない。ガソリンのように“レギュラーディーゼル”や“ハイオクディーゼル”と分かれてはいない(過去にプレミアムディーゼルが日本で販売されていたこともあるようだが今は1種類となっている)。そのため、ディーゼルは1種類と思ってしまうかもしれないが、実はJISの規格では、流動点の違いにより「特1号」「1号」「2号」「3号」「特3号」の5種類に分類されている。

各種類ごとの流動点(軽油が低温で固まり始めて流れにくくなる温度)とセタン価(自己着火のしやすさを示す指標。数値が大きいほど自己着火しやすくノッキングが起こりにくい)の違いは次のようになっている。

・特1号:流動点=+5℃以下、セタン価=50以上
・1号:流動点=-2.5℃以下、セタン価=50以上
・2号:流動点=-7.5℃以下、セタン価=45以上
・3号:流動点=-20℃以下、セタン価=45以上
・特3号:流動点=-30℃以下、セタン価=45以上

このような違いがあるため、夏は1号または特1号、冬は2号(寒冷地は3号または特3号)と季節により使い分けられている。ただし、どの地域で、どの種類の軽油が、いつから販売されるかは場所によって異なる。そのため、暖かさが残る地域から寒冷地へウィンタースポーツなどを楽しむためにディーゼル車で出かけるときは、寒冷地に入ったら現地で販売されている軽油を給油するように心がけるとよいだろう。

また、ディーゼルは、ガソリンと違って季節によってセタン価が異なる。つまり、クルマの走行性能にも影響するということだ。
ディーゼル車で季節による軽油の違いを感じられるのか? 日頃から欧州のディーゼル車に乗っている筆者は、夏と冬でセタン価の違いを感じることがある。

具体的には以下のような違いを感じられる。
・夏場:アクセルの踏み込み量に対してスペック通りの太いトルクを感じられる
・冬場:アクセルを踏み込んでも力強いトルクを感じられない

このようなことを感じるのは、夏と冬でセタン価が「5」も違うからだ。ガソリン車に例えると、夏はハイオクガソリン指定車にハイオクガソリンを入れ、冬はハイオクガソリン指定車にレギュラーガソリンを入れているようなものだ。

セタン価の違いが走りに影響するとは聞いていたものの、実際にその違いを体感すると「これほどにまで走りが違うのか!」と驚く。

ディーゼル車オーナーの中には、冬場に「力強さがなくなった?」と感じる方もいるだろう。その感覚は間違っていない。なぜなら、夏の冬で軽油の流動点やセタン価などが異なるためだ。ディーゼル車に乗っている方やこれからディーゼル車に乗ろうと考えている方は、季節によって軽油が違うことを覚えておくとよいだろう。

文=齊藤優太(ENGINE編集部)

(ENGINE Webオリジナル)