大学に進学する際の入学金や授業料などの大きな費用を、孫のために援助しようと準備している人は多いでしょう。税金で目減りすることなく、お金を有効に使うにはどうすればよいか悩んでいる人もいるのではないでしょうか。 そこで本記事では、孫の教育資金を援助する際の贈与税のルールや節税する方法をまとめました。
祖父母を含む扶養義務者からの教育費・生活費の「都度贈与」は課税対象外
祖父母が孫の学費を援助する場合、「都度贈与」であれば、原則として贈与税は課税されません。都度贈与とは、教育費や生活費が発生するたびに、必要な金額を「その都度」贈与する方法です。
日本では、通常必要と認められる金額の範囲であれば、生活費や教育費として扶養義務者から得た財産には贈与税がかからないことが定められています。ここでの生活費、教育費とは次の費用です。
・生活費:通常の日常生活に必要な費用(治療費、養育費、子育て費用などを含む)
・教育費:学費、教材費、文具費などの費用
つまり、孫のために用意した教育費を一度にまとめて渡さず、支払いが発生するたびに実費の範囲で「都度」渡すのであれば、合計金額がいくらになったとしても贈与税はかかりません。ただし、社会通念上通常必要と認められる範囲を超える場合や、使い道が明確でない場合は課税対象となることがあるため注意が必要です。
そもそも年間110万円以内の贈与には贈与税がかからない
贈与税の基本的な仕組みとして頭に置いておきたいのは、年間110万円以内の贈与であれば、用途にかかわらず贈与税がかからないという点です。
贈与税の税額は、実際に贈与を受けた金額から基礎控除の110万円を差し引いた額を課税価格として計算します。そのため、贈与額が110万円を超えない場合は、課税価格が0となるため贈与税がかかりません。
ただし、年間110万円以下の贈与額であっても、毎年一定の時期に一定額ずつを長年にわたって渡す方法だと「定期贈与」とみなされて、総額に対して贈与税が徴収されるケースがあります。
これを回避するためには、贈与の時期や金額を毎回変えるとよいでしょう。例えば、同じ総額1000万円の贈与であっても、毎年1月に100万円ずつを10年間かけて渡す場合と贈与の金額も時期もバラバラの場合とでは、後者のほうが定期贈与とみなされるリスクは低くなります。
また、生前贈与の証拠を残しておくことも大切です。どのような場合でも、贈与契約書を作成して保管しておくとよいでしょう。
「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」を利用すると非課税で一括贈与が可能に
祖父母から孫に教育費を一括で贈与する際の贈与税を節税できる制度として「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」があります。
この制度では、30歳未満の人(受贈者)が祖父母などの直系尊属から教育資金を贈与された場合に、受贈者1人につき最大1500万円の範囲で贈与税が非課税となります。本制度を利用するメリットはまとまった金額を一度に贈与できる点ですが、次のような注意点もあります。
・適用期間:令和8年3月31日まで(延長の可能性あり)
・所得制限:受贈者の前年の合計所得金額が1000万円を超える場合は適用不可
・資金管理:贈与した金銭は専用口座で管理し、引き出す際には領収書の提出が必要
・追加要件:贈与額が5億円超の場合は使い残しに相続税が課される可能性あり
制度を利用しない場合と比べて手続きが複雑になるため、利用するメリットがあるかどうか事前に検討しましょう。
相続時精算課税制度を利用して節税できるケースも
「相続時精算課税制度」とは、贈与税を贈与者が亡くなって相続が発生したときにまとめて精算できる制度です。60歳以上の父母や祖父母から18歳以上の子・孫に生前贈与する場合にのみ、毎年税額を計算して納税する「暦年課税」と「相続時精算課税制度」のいずれかを選択できます。
相続時精算課税制度には、毎年110万円の基礎控除額と2500万円の特別控除額が設けられています。基礎控除分は相続財産に加算されず、特別控除分は相続時に加算されます。
累積贈与額が特別控除額の2500万円を超えない場合は、贈与税がかかりません。また、2500万円を超えた金額に対する税率も一律20%となります。そのため、贈与額によっては相続時精算課税制度を選択するほうが贈与税の節税になるのです。
ただし、累積贈与額は相続税の計算時に相続財産に加算されるため、全くの非課税になるのではない点に注意が必要です。また、相続時精算課税制度を選択したのちは、暦年課税を選択し直すことができません。
制度の利用にメリットがあるかどうかの判断が難しい場合は、税理士などの専門家に相談することも視野に入れる必要があるでしょう。
贈与税の仕組みを知って孫のために資産を上手に使おう
祖父母から孫に教育資金を贈与する場合、都度贈与や基礎控除額内での贈与など、基本的なルールの範囲で贈与税がかからない方法を選択するのが賢い方法です。また、手続きは複雑になりますが、一括でまとまった額を贈与しても、贈与税を節税できる制度もあります。孫のために無駄なくお金を使えるよう、贈与税の仕組みを理解しましょう。
出典
国税庁 No.4405 贈与税がかからない場合
国税庁 No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
文部科学省 教育資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置
国税庁 No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税
国税庁 祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし
国税庁 No.4103 相続時精算課税の選択
執筆者:FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー