全国各地で導入が進む「宿泊税」は、観光立国を目指す日本において、地域経済や観光施策の財源として注目を集めています。東京都は、観光都市としての地位を確立する財源とするため、2002年に全国に先駆けて宿泊税を導入しました。   本記事では、東京都の宿泊税がもたらす税収と、使い道や今後の展望をまとめました。

宿泊税とは

宿泊税は、地方自治体が独自に課税する「法定外目的税」です。ホテルや旅館などに宿泊する際、宿泊者が負担する税金であり、観光振興や受け入れ環境の整備など、地域の観光施策に充てられます。
 
宿泊税が導入された背景には、観光客の増加に対応するための観光インフラ整備や維持管理、多言語対応、観光案内所の充実など、受け入れ環境の向上対策が挙げられます。
 
現在、多くの観光地で観光客の集中による混雑や環境負荷の増大が問題となっており、その対策費用が必要とされていることも背景にあるでしょう。
 
そのほか、地域独自の観光資源の開発・維持と国内外へのプロモーション強化でさらなる誘客を図るための資金も不可欠といえます。これらの費用を賄うために、観光客にも負担を求めるという「受益者負担」の考え方に基づき、宿泊税が導入されているといえるでしょう。
 

宿泊税の概要

東京都主税局によると、東京都の宿泊税の概要は以下の通りです。

課税開始:2002年10月1日
課税対象:都内のホテルまたは旅館のすべての宿泊者(一人1泊あたり)
     一人1泊あたりの宿泊料金が1万円未満の場合は非課税
税  額:1万円以上1万5000円未満 100円
     1万5000円以上      200円

宿泊料金には、食事料金やその他のサービス料金は含まれず、いわゆる素泊まりの料金が対象となります。
 

東京都の宿泊税収入の実態

東京都主税局の「宿泊税 20年間の実績と今後のあり方」によれば、東京都の宿泊税収は、導入以来インバウンド需要の拡大とともに右肩上がりでした。
 
コロナ禍による課税停止や宿泊需要の減少により、2019年度には27億1000万円あった税収が、2020年度は9000万円、2021年度は2億5000万円と落ち込みましたが、以降の税収は順調に回復しています。
 
なお東京都主税局の「事業概要」によると、令和6年度の宿泊税の当初予算額は48億円で、この金額は、都税収予算全体6兆3865億円のうちおよそ0.1%です(※補正後予算では、税収全体が6兆6906億円、宿泊税が64億円)。
 

東京都の宿泊税の使い道

東京都は、宿泊税の全額を観光振興施策に充てています。具体的には、以下のような幅広い事業に活用されています。

●観光関連事業者の経営力向上支援
●国内外への観光プロモーション
●旅行者の受け入れ環境整備(Wi-Fi、デジタルサイネージなど)
●観光情報センターの設置・運営
●多言語対応やバリアフリー対策
●国際会議や展示会などの誘致

観光客の満足度向上だけでなく、地域の活性化や国際都市としてのブランド強化にも寄与することが期待されるでしょう。
 

東京都の宿泊税のあり方と今後の課題

宿泊税について、東京都では有識者の意見を参考にしてそのあり方を検討しているようです。背景には、観光振興費用の増加や高級ホテルの増加、他自治体での導入拡大など、宿泊税を取り巻く環境の変化が考えられます。
 
内容は、税額の引き上げや課税対象の拡大(民泊や簡易宿所への適用)、1万円未満の宿泊料金にも課税するか否かなどです。
 
現行制度では、一人1泊1万円未満の宿泊には課税されていませんが、都の観光施策の恩恵を受けていることを理由に、課税対象に加えるべきという意見もあるようです。一方で、修学旅行生やビジネス客への配慮から、現状維持を求める声もみられます。
 
また、宿泊税の使い道については、観光振興施策に限定せず、グリーン化やバリアフリー化など、都市の魅力向上にも活用すべきという意見もあります。
 

まとめ

宿泊税は、東京都を始めとする全国の観光都市において、観光振興や都市の魅力向上に不可欠な財源となっているといえます。
 
東京都では、令和6年度で48億円の宿泊税収を当初予算として見込んでおり、税収は観光関連施策に活用されています。しかし、観光を取り巻く環境は常に変化しており、宿泊税の制度もまた、観光の需要や社会環境の変化、時代とともに見直しが求められるでしょう。
 

出典

東京都主税局 宿泊税
東京都主税局 宿泊税 20年間の実績と今後のあり方
東京都主税局 事業概要 第3章
東京都主税局 都税収入予算:令和6年度(補正後)
 
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー