福岡市の自宅で2025年1月、自発呼吸ができない当時7歳の娘の人工呼吸器を外して殺害した罪に問われている母親の裁判員裁判で、福岡地方裁判所は7月18日、母親に懲役3年、保護観察付き執行猶予5年の判決を言い渡した。

 

注目の量刑「 執行猶予付き」判決

2025年7月18日、福岡地裁905号法廷。緊張した面持ちで裁判長の前に立ったのは、殺人の罪に問われている福岡市博多区の無職・福崎純子被告(45)。

「主文、被告を懲役3年に処する。この裁判が確定した日から5年間その刑を猶予する。被告人をその猶予の期間中、保護観察に付する」。

福崎被告は2025年1月、福岡市内の自宅マンションで、先天的な『脊髄性筋萎縮症』のため自発呼吸ができず医療的ケアが必要な長女、心菜さん(当時7歳)の人工呼吸器を外し、窒息死させて殺害したとして殺人罪で起訴されていた。

7月11日の初公判で福崎被告は「間違いありません」と起訴内容をすべて認めており、裁判の争点は裁判所が被告の置かれていた状況をどう判断するか、そして量刑が焦点とされた。

「死のう」と決意した“きっかけ”

7月14日に行われた被告人質問で、『急に闇に落ちた?』と弁護人に問われた福崎被告は、「『急に、あっ死のう』と周りが見えず、死ぬ準備ばかりしていた」と答えた。福崎被告は、事件の2日前、夫に心菜さんの介護の手伝いを初めて断られたことに怒りを覚えたと、犯行に至った“きっかけ”についても語っていた。

▼弁護人「ご主人と2人で心菜ちゃんをうつ伏せから仰向けにしようとして、手伝ってと声かけをして…」

▼福崎被告「夫の顔は怒っていて、舌打ちしながら『あー、いっちょん寝れん。午後6時から飲み会だったのに遅れていこうかな』とすごく不機嫌な態度をとっていた。(弁:どう思った?)心菜より飲み会のこと心配するんだ。心菜は動けないから、ずっとうつ伏せのままになる。かわいそうすぎると、怒りがこみ上げてきました。(弁:結局1人で?)はい、怒りを押し殺して全身使って1人で戻しました」

▼弁護人「その後、怒りに変化?」

▼福崎被告「怒りから悲しみに変わって、涙が止まらなくなった。(弁:悲しみとは?)心菜がかわいそうで…『よく放っておけるよなあ』と思った感じで…」

この出来事がきっかけで福崎被告は、過去に父親から言われた『心ない言葉』を思い出したという。

▼福崎被告「実の父が、心菜が大きくなってきて、盆や正月に会いに行かせたときに『大きくなったね』と声をかけて欲しかったが、(実父は)ため息をついて『これからどうするね』と言われて、このまま心菜は、生きたらだめなのか…。心臓をえぐられたような感じになってしまって…。なぜ、心菜は病気で頑張って生きているのに、私は私なりに頑張って育てているのに、身内はそんなこと言うんだろう。心菜のことはいらない存在なんだって。暗いトンネルに落ちたみたいな感情になって…『心菜はいない方がいいんだったら、私も生きる意味がない』となって、一緒に死のうと…。そこから自殺を検索しだしました」

▼検察官「被害者を出産して後悔したことは?」

▼福崎被告「後悔というか申し訳ない気持ち。両家にも心菜にもこんな体で産んで申し訳ない」

▼検察官「被害者は、どんな存在だった?」

▼福崎被告「人生で初めてできた、かけがえのない宝物です。心菜のためなら何でもできるという感じです。(検:それを自分の手で?)殺めてしまって、自分は、のうのうと生きている。後悔、絶望、罪悪感じゃ足りなくて…、一生、罪を背負って悔い続ける気持ち…」

犯行後、福崎被告は亡くなった心菜さんを腕に抱いたまま自殺を図ったが、異変に気付いた家族に発見され、病院に救急搬送された。

7月15日に開かれた論告求刑で、検察は「介護に協力的な夫の一時的な言動に引きずられ、衝動的に決意した短絡的な犯行」だとして懲役5年を求刑。一方の弁護側は、「心菜ちゃんを8年近く必死に守り続けてきた被告の努力を思うと、実刑を科すのはあまりに酷」だとして、執行猶予付きの判決を求めていた。