「選手証」でデータ管理を行うオーストリアのサッカー界

「選手証」に基づく評価、育成年代の自由な移籍――。日本とは異なる交渉・制度・契約のルールを熟知し、欧州で日々クラブ運営の中核を担う日本人指導者がいる。オーストリア2部ザンクト・ペルテンでテクニカルディレクター、育成ディレクター、U18監督を兼務するモラス雅輝は、どのようにチーム作りを進めているのか。多角的な移籍交渉を成功させる日本人指導者の実務に迫る。(取材・文=中野吉之伴)

  ◇   ◇   ◇   

 モラスが統括する育成チームは、U15からU18までの年代。日頃から定期的に各チームの練習や試合に足を運び、選手たちの細かい部分まで把握に努める。クラブに所属する約100人のアカデミー選手のデータや契約関連事項のほぼすべてが頭に入っているという。プレーヤーとしての側面はもちろん、学校での成績や取り組み、性格、さらに将来のビジョンまで、選手たちとは日常的に幅広い話題でコミュニケーションを図っており、信頼関係の構築にも余念がない。

 特にシーズン終盤の時期は、来季に向けた各チームの編成を最適化するため、会議と交渉が立て続けに行われる。オーストリアのサッカー界では、プロ選手を別にして、すべての選手は「選手証」で帰属先が明確になる。この選手証に基づき、育成年代でどのクラブにどれだけ在籍していたかといった情報は、すべてオーストリアサッカー協会のデータベースに記録されている。