Image: Netflix
7月10日から配信が開始したNetflixオリジナルのSFアニメ『リヴァイアサン』。
本作は、『BEASTERS』や『TRIGUN STAMPEDE』などのCGアニメを生み出した日本のStudio Orangeと、『スター・ウォーズ:ビジョンズ』や『エデン』を手掛けたQubic Picturesによるコラボレーションで制作された3DCGアニメ作品です。
物語はアメリカのスコット・ウエスターフェルドによる同名のSF小説シリーズを原作としており、スチームパンク×歴史フィクションといった内容となっています。
「西洋のSF小説を日本のアニメとして描く」という新たなトレンドに挑戦した意欲作ともいえるこの『リヴァイアサン』。
io9がStudio Orangeの渡邊喜洋氏、Qubic Picturesのジャスティン・リーチ氏とカトリーナ・マイネット氏に本作についてインタビューを行ないました。なぜこの作品をアニメ化したのか、制作の裏側、西洋と日本の融合という挑戦について語ってもらいましたよ。
『リヴァイアサン』のストーリー
インタビューの前に、軽く『リヴァイアサン』のストーリーについておさらいしておきましょう。
舞台となるのは第一次世界大戦期のヨーロッパをベースとした「if世界」。そこでは、機械文明を発展させた「クランカー」と遺伝子操作で生み出した生きた兵器を操る「ダーウィニスト」という二大勢力が対立していました。国を超えた規模の勢力が、機械技術と生物科学による争いを繰り広げているわけですね。
クランカー陣営に生まれた公子・アレックは、国家の陰謀に巻き込まれ逃亡を図る。一方ダーウィニスト陣営のデリン・シャープは、男装して海軍航空隊に志願する。
2人は遺伝子操作で生きたクジラ型飛行船「HMSリヴァイアサン」に乗り込み、運命に導かれるように出会いを果たす。そして世界を変える旅が始まるのです。
20世紀前半を舞台にしたもしもの話。敵対する2人がテクノロジーとサイエンスが織りなす戦争と向き合う。そんなストーリーの西洋のSF小説を日本のアニメとして描くわけです。
こうしたあらすじを念頭に置きつつ、制作陣のインタビューを見ていきましょう。
スチームパンク小説をなぜ日本のアニメに?
──両スタジオが『リヴァイアサン』という西洋のスチームパンク作品を日本のアニメとして作り出した理由はなんでしょうか?
ジャスティン・リーチ(エグゼクティブプロデューサー Qubic Pictures):まず、スコット・ウエスターフェルドが構築した原作の世界観。そしてキース・トンプソン(原作の挿絵を担当)によるビジュアルに一目惚れしました。
スチームパンクの機械文明と有機的なバイオテクノロジーが融合した独特の設定は、アニメのクリエイティビティとの相性が良いとも感じたのです。また、文化的な交流やアイデンティティの探求といったテーマも、私たちが重視するストーリーの軸と重なると思いましたね。
最先端の3DCGアニメーションの制作で知られるStudio Orangeにとっても、『リヴァイアサン』が持つこれらのテーマは、独特のビジュアルスタイルを披露する機会として良いとも感じたのです。
渡邊喜洋(プロデューサー Studio Orange):このプロジェクトは『BEASTERS』の第1シーズンの終わったころで、ちょうど『TRIGUN STAMPEDE』の次のプロジェクトを探している時期に話があがってきました。
『リヴァイアサン』はキャラクターが非常に魅力的で、表現の上でも私たちが新しいことに挑戦できるようなテーマだと感じましたね。
──原作者のスコット・ウエスターフェルドとキース・トンプソンが、アニメ制作に参加すると発表されていましたね。この作品を日本のアニメとして再構築する上で、どのようなコラボレーションになりましたか?
リーチ:2人ともプロジェクトの始めから積極的に関わってくれました。キャラクター描写やストーリーのテンポ、感情の起伏といった原作の"核"となる部分をどのようにアニメに落とし込むかを一緒に考えてくれましたね。
特にキースのビジュアル資料や深い知識は、アニメでクランカーやダーウィニストの世界観を再現する上で、大きな助けとなりました。
カトリーナ・マイネット(プロデューサー Qubic Pictures):2人とは制作初期にたくさん話し合いました。彼らは原作を作る上で、実際に参考にしたインスピレーションやリサーチなどを交えながらアドバイスをくれたのです。
メカやクリーチャーのデザインにおいても、参考としたものや動植物の話もしてくれましたね。
渡邊:彼らとの共同作業はクリエイターとして非常に刺激的でした。スコットもキースも、他分野の表現者へのリスペクトを持ちつつ、自分たちの視点をしっかりと共有してくれました。『リヴァイアサン』の世界やキャラクターに命を吹き込む上で、理想的なパートナーでしたね。
機械と生物の対立をどう表現するか
──『リヴァイアサン』という作品は、機械兵器や遺伝子操作で作られた生物といった特徴的なビジュアルがあります。アニメ的表現として、これらをどのように表現したのでしょうか?
リーチ:Studio Orageは、アレックとシャープのバックグランドの違いを際立たせるために、「クランカー」と「ダーウィニスト」それぞれの世界を視覚的に差別化することを重視しました。
例えば、クランカー陣営では、熟練のメカデザイナーと連携しながら高度な3Dモデリングを駆使して、硬質なメカデザインを作り上げました。全体的に無機質で産業的な精密さを強調した描写が表現されています。さらに軍服のディテールに至るまで、専門家と協力することでリアリティのあるミリタリーデザインを徹底しています。
一方のダーウィニスト陣営には、クラゲの気球やクジラの飛行船があります。これらは流れるような有機的なデザインが採用され、生き物としての温かさや柔らかさといった生命感が強調されています。
このように「機械の硬質さ」と「生物の柔軟さ」による意図的な対比は、映像表現に深みを与えるだけでなく、2人の主人公がそれぞれ異なる世界からやってきたことを、視覚的に印象づける重要な要素にもなっているわけです。
──原作で描かれたクランカーとダーウィニストの壮大な世界観(例えばHMSリヴァイアサンや金属製のオートマトン、あるいはキャラクターの感情豊かな動きなど)をアニメとして命を吹き込む上で、技術的、あるいは芸術的な一番の課題は何でしたか?
リーチ:最大の課題は、HMSリヴァイアサンの巨大なスケール感や精密なディテールを、搭乗しているキャラクターたちや対峙するさまざまな敵との関係性のなかでどう描くか、という点でした。
Studio Orangeは、新たなアニメーション制作のワークフローを開発し、ダイナミックなアクションと繊細で感情表現豊かな芝居を、違和感なく融合させることに挑戦しました。例えば、カメラがキャラクターの周囲を回っても顔の角度は自然に補正され、「2Dアニメ」のように見えるスタイルを維持できるような革新的なシステムも導入しています。
芸術的な側面では、壮大な戦闘シーンとキャラクターたちの内面的なストーリーをいかに両立させるかが鍵でした。全体のスケールの大きさと個人的な感情を同時に描く・同居させるという複雑な試みは、非常にチャレンジングでしたが、大きなやりがいのある創作プロセスだったといえますね。
音楽が持つ民謡のような息遣い
──『リヴァイアサン』で久石譲氏とのコラボレーション(オープニング・エンディングテーマを担当)が実現しましたが、どのような経緯だったのでしょうか? また、氏の楽曲は、本作全体のサウンドのトーンを形作る上で重要な役割を果たしたのでしょうか?
リーチ:久石譲氏とのコラボレーションは、私たちにとってまさに夢のようでした。プロジェクトの初期段階からアプローチさせていただきましたね。彼の音楽には壮大なテーマ性と感情の奥深さが完璧なバランスで共存しており、『リヴァイアサン』の持つ豊かなストーリーに正にふさわしいと感じています。
私たちが目指したのは「時代を超えるクラシックで壮大な冒険譚」であり、久石氏の音楽はその中核を担うものだと確信していました。彼はそうしたビジョンに共感し、オリジナル楽曲を熱心に作り上げてくれたのです。その結果、作品全体の「感情の輪郭」が形成され、重要なシーンにさらなる深みが生まれました。
また、(『攻殻機動隊 SAC_2045』や『ULTRAMAN』なども担当した)戸田信子氏と陣内一真氏が参加し、久石氏のモチーフを取り入れつつ、力強く映画的な劇伴を構築してくれました。
マイネット:久石譲氏のテーマソングは、キャラクターたちが劇中で歌うシーンもあったので、制作のかなり初期の段階で用意していただきました。
クリストフ・フェレラ監督は、当初から「音楽をこの作品の中核にしたい」と語っており、これらの歌はキャラクターの内面を覗き込む"窓"のようなものでした。
久石氏の楽曲はその役割を完璧に果たしただけでなく、作品全体のトーンの確立も担ったわけです。特に意識したのは「その文化・文明の中で昔から歌われていた民謡」のように聴こえるものにすること。そのため、当時の民族楽器や旋律のモチーフを楽曲に落とし込み、文化的な厚みを持たせたのです。
渡邊:久石譲という「巨匠」との仕事の機会を得られたのは、Qubic Picturesの尽力によるものでした。音楽はこの作品のなかでもまさに"核"を担う要素です。
初めて音楽について話し合ったときに、私は「人と人とをつなぐ音楽」というアイデアを共有しました。国や文化を超えて、誰の心にも響く「共通言語のような音楽」を作りたかったのです。影響力を持つ1つの歌が、知らず知らずに世界中で形を変えて受け入れられ、誰もが耳にしたことがあるものになる、そんな歌と考えていました。
私はアニメーションと音楽が、一瞬だけかもしれませんが、世界を1つにできる共通言語になると信じています。
特に印象的なシーンやキャラクター描写とは
──原作をアニメ化する上で、特に印象深くやりがいのあったシーンやキャラクター描写はありましたか?
リーチ:主人公であるアレックとシャープの関係性の変化をアニメとして描くのは、やりがいがありましたね。最初は敵対する勢力の出身ということで互いに警戒し合いますが、次第に「人としての共通点」を見出して仲を深めていく。このプロセスは『リヴァイアサン』の感情的な核でもあります。
2人が初めて出会うシーンやストーリーの転換点となる戦闘シーンなど、ビジュアル面での演出にも力を入れました。2人の絆の深まりや成長がていねいに描けたことは、私たちにとって小説のアニメ化において非常に重要なことでした。
渡邊:アレックとシャープのやりとりは、私もとても愛着があります。特に印象的だったのは、2人が自分たちの違いを理解し、それを受け入れた上でこれから進むべき道を選んでいく姿です。
彼らが初めて出会うシーンは、感情や動きそのものが、まさにクランカーの"冷たい鋼鉄"とダーウィニストの"熱を持った鼓動"を象徴しているようでした。それから彼らは互いに影響を与え合い、自分の中に取り込んでいきます。そうした変化の瞬間を描くのは、とても心に残る作業でした。
それから、ニコラ・テスラのキャラクターには少し驚かされましたね。原作小説では、あそこまで陽気でエネルギッシュな人物を想像していなかったのです。テスラの声を担当した東地宏樹氏の演技が、とても生き生きとしていたおかげで、アニメーター陣も「この元気さをもっと表現したい!」と楽しみながら作画していました。
込められたメッセージ
──『リヴァイアサン』の原作は三部作ですが、アニメも続編を制作するプランはありますか?
リーチ:実は今回のシリーズで原作三部作すべてをカバーしています。ただし、『リヴァイアサン』の世界観は非常に奥深く、まだまだストーリーを掘り下げる余地はあります。
もし視聴者の反応が良く、Netflixや原作者のスコットからもゴーサインをいただければ、この魅力的な世界でさらなる冒険やキャラクターたちのストーリーの続きに取り組みたいと思っています。
マイネット:このプロジェクトの開始時点で、「三部作すべてを1シリーズにまとめて描く」という方針は決まっていました。なので、最初からそのつもりで構成を考えて進めていたわけです。
でも、もし反応が良くて、関係各所の協力が得られるのなら、2人の旅の続きを描いてみたいですね! もっと冒険をして、さらに多くの生き物やメカを登場させて、という感じで。
渡邊:まずは視聴者の皆さんがこの作品を観終えたあとに、どんな感想を持ってくれるのか。それを聞くのが何より楽しみですね。
──最後に『リヴァイアサン』を通じてどのようなメッセージを届けたいですか?
リーチ:『リヴァイアサン』で描かれている本質的なテーマは「共感」や「アイデンティティ」、そして「異文化理解」です。
登場するキャラクターたちは国家という枠組みを超えて、互いの価値観や人間性に触れながら成長していきます。その姿を通して、観ている人にも「自分とは違うバックグランドを持つ人たちとも、共通の価値観を見出だせるかもしれない」と感じてもらえたらうれしいです。
そして、若い世代の勇気や相互理解がもたらす変化の可能性に光を当てることで、「分断された世界でも、自分の行動で前向きな変化を生み出せる」という希望を届けられたらと思っています。
マイネット:たとえ小さな行動だとしても、それが波紋のように広がって大きな変化につながることがありますしね。
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