(山﨑 友也:鉄道写真家)

愛知県で最初に開通した武豊線

 1872(明治5)年に日本で初めて鉄道が開業して以来、全国に路線網は広がっていき、現在では路面電車を含めると1万を超えるほどの駅がある。開業当時の姿のままで100年以上営業を続けている古い駅もたくさんあるが、なかでも現役最古とされる駅舎があるのが亀崎駅。ほとんどの人が聞き慣れない駅名だと思うが、今回はその駅がある武豊線について紐解いてみよう。

 武豊線は愛知県の東海道本線大府から知多半島の東側を走り、武豊までの19.3kmを結んでいる盲腸線。全線が単線で、2015年までは非電化だったというローカル線だが、実は愛知県で最初に開業した路線なのである。

 新橋〜横浜(現桜木町)間に国内初の路線が誕生し、2年後の1874年には大阪〜神戸間が開業した。そこで当時の政府は関東と関西の鉄道をつなげようと、現在の東海道本線の建設に邁進する。東西から徐々に路線を延ばしていくだけでなく、さらに延伸を早めるために東海地区からも路線を建設することが要用だとされ、建設資材を愛知県の熱田へ運ぶための運搬線としての整備が進められていた。

 当時資材はイギリスから船で輸入していたため、大きな港がある三重県の四日市と愛知県の半田も候補に挙がっていたが、武豊港は海も穏やかで大型船が入れるだけの水深もあり、土木工事の職人の確保も容易などの理由から、武豊と熱田を結ぶ路線に決定した。工事は7カ月足らずの驚くべき早さで完了し、おかげで1887年には武豊〜長浜間が、翌1888年には大府〜浜松間が開業し、武豊線開業のわずか3年後である1889年には新橋〜神戸間が全通することとなったのだ。

 もともと資材運搬線として建設がスタートした武豊線だが、完成間近の1886年2月に当時の鉄道局長だった井上勝が政府に上申書を提出する。その内容は、武豊発の列車は資材でいっぱいだが、熱田からの帰りの列車は空車のため、貨車に客車を連結して運行した方が効率的なのではというものだった。要望は即認可され、こうして1886年3月1日に武豊線は開通する。その途中駅として建てられたのが亀崎駅という訳だ。