論戦のさなか、身近な暮らしに不安がよぎった。

 救急医療で京都府、滋賀県をエリアに年約400回出動するドクターヘリが一時運休を余儀なくされた。搭乗する整備士が不足し、応援を頼む近隣府県とカバーしあう状況という。

 住民の命と生活を守るインフラが、担い手や予算の不足とともにほころびが目立ちつつある。

 足元にとどまらず、中長期を見据えた社会と財政の在り方の議論が求められる。

 5月に京都市の国道1号を浸した水道管漏水のほか、埼玉県の下水道管破損事故など道路陥没は全国で年1万件超えにも及ぶ。

 国が先月まとめた国土強靱(きょうじん)化計画案(2026〜30年度)は事業規模20兆円を掲げ、半分を老朽インフラ修繕や耐震補強に充てる。だが必要箇所は膨大で、緊急修繕の道路・橋ですら5カ年の整備目標は80%、気候変動に対応した河川洪水対策は39%。完了予定は51年度、80年度とはるか先だ。

 人口減に伴う事業収入の先細りや自治体の財政難、建設業界の人手不足も足かせとなっている。

 「あれもこれも」と新設・拡張を含め大盤振る舞いを続けるのは限界である。取捨選択し、優先度を定めて財源を確保するのが政治の役割だろう。

 そのためには財政の余力が欠かせないが、各党の公約は相反している。物価高対応として軒並み給付・減税を掲げている。

 必要予算は現金給付案で3兆円台、消費税減税・廃止で最大20兆円超に及ぶ。既にガソリンなどエネルギー代補助も計11兆円超とインフラ補修計画費を上回っており、巨額さが際だっている。

 石破茂政権は先月、国の財政状況を示す基礎的財政収支の黒字化目標を「25年度から26年度」へ後ずさりさせた。新型コロナウイルス禍対応で膨張した歳出を「平時に戻す」方針はかすんでいる。

 給付・減税の財源は、与党や日本維新の会、国民民主党が税収増の還元、立憲民主党は積み過ぎた基金取り崩しなどとし、れいわ新選組や参政党は国債発行を挙げる。

 財源規律を棚上げするような政治の姿勢に、先進国最悪の借金財政のさらなる悪化が懸念され、債券市場で長期金利が上昇している。物価高や円安を助長するリスクも否めない。

 人口急減や巨大災害に備え、次世代にも責任ある持続的なかじ取りを語ってもらいたい。