かつての私は、ワークアウト中に気を紛らわすことの熱心な信者でした。

特に、単調になりがちな長時間の有酸素運動において、それは「継続するための賢い工夫」だとさえ思っていたのです。このアプローチを推奨する記事を書いたことさえあります。

しかし、自身のワークアウト成果をデータで可視化し、目標を再設定するなかで、その考えは180度変わりました。過去の自分が見過ごしていた決定的な事実を認め、ここにお伝えしたいと思います。

この記事では、私が有酸素運動中の「ながら作業」をやめた説得力のある理由をお話しします。トレーニングの効果を最大化し、本当の達成感を得るための、重要なヒントになるはずです。

マルチタスクが機能しない理由

マルチタスクは、実は機能しません。

私たちの脳は、複数のタスクを同時に処理しているように見えて、実際には猛スピードで注意の対象を切り替えているだけです。

その切り替えには常にエネルギーと集中力のロスが生じ、結局どちらのタスクの質も低下させてしまいます。

1つのことに全力で取り組む代わりに、2つのことを「まあまあ」でこなすことになるのです。

もちろん、運動中に気を紛らわしたいという誘惑は強力です。特に、ランニングやそのほかの退屈でキツい有酸素運動をしているときはなおさら。

私も長年、大好きなテレビ番組は「必ずエリプティカルマシンかトレッドミルの上にいるときだけ見る」というマイルールを実践していました。

何もしないよりは、気を紛らわしながらでも運動する方がマシだ

この考え方そのものは、間違いではありません。

しかし私は「集中して行う運動がもたらす圧倒的な成果と達成感」という、より重要な価値から目をそむけていたのです。

データが示した、不都合な真実

フィットネスバイクで有名なPelotonが、バイクやトレッドミルを使いながらYouTube動画を視聴できる機能を発表したとき、私は当初、大喜びしました。

バーチャルクラスや『Lanebreak』というゲームばかりで単調になりがちだったワークアウトに、変化をつけられると期待したのです。

しかし、すぐに気づきました。

デバイスの大画面でミュージックビデオを見ながらペダルを漕いでいる時間は、ほかのどんなワークアウトよりも楽で、効果が薄いと感じたのです。

先日、これまでの全ワークアウトデータをスプレッドシートにダウンロードして分析し、その感覚が正しかったことを確信しました。

YouTubeを見ながらのワークアウトは、ほかのクラスやゲームに比べて、効果が著しく低かったのです。特にひどかった例がこちらです。

  • ワークアウト時間: 17分 (YouTube視聴)
  • 消費カロリー: わずか57kcal
  • 平均負荷: 32% (自己ベストの半分以下)
  • 平均速度: 17.4km/h

比較対象として、集中して行った別の15分間のワークアウトでは、消費カロリーはこの3倍以上を記録していました。

一体何をしていたのか、今となっては思い出せません。おそらく、ミュージックビデオに夢中だったのでしょう。

データセット内のほかの、より短いワークアウトでさえ、これよりはるかに多くのカロリーを消費し、高い出力、抵抗、ケイデンス(回転数)、速度、距離を記録していました。

要するに、気を散らすことを自分に許した途端、私の脳は「これくらいの努力で十分だろう」と自動的に判断してしまったのです。

意識では運動しているつもりでも、身体は無意識に最も抵抗の少ない道(the path of least resistance)を選んでいたのです。

ワークアウトの目標設定が変われば、やり方も変わる

以前の私のワークアウト目標は「ただ体を動かして、少し健康になること」でした。それ自体は全く問題のない、素晴らしい目標です。

しかし、この1年ほどで私の目標は変化しました。

今では、かなり厳しいタイムライン付きで、具体的な減量、筋力アップ、スキル向上といった目標を設定しています。

気を散らしながらのランニングやサイクリングは、これらの目標達成には全く貢献しません。むしろ、頻繁に行えば大きな足かせになるでしょう。

研究によれば、運動中の注意散漫はパフォーマンスに悪影響を与えることが一貫して示されています。

ただし、興味深い例外が1つだけあります。それは「音楽」です。

良質な音楽は、単なる気晴らしとは異なり、運動のリズムと身体の動きを同調させ、疲労感を軽減し、結果としてパフォーマンス向上につながることが分かっています。

これは私自身の経験とも完全に一致します。

完璧なプレイリストが流れているとき、私はゾーンに入ったかのようにペダルを漕ぎ、自己ベストを更新することさえあるのです。

その事実は、私のApple Watchのデータにも鮮明に記録されています。

「ながら運動」が効果的な唯一のケースとは?

もし目標が、単に「トレッドミルに乗るモチベーションを上げたい」とか「もっと頻繁に散歩する習慣をつけたい」といったレベルであれば、気を紛らわすワークアウトが役立つかもしれません。

少なくとも、習慣化の入口としては有効でしょう。

研究によれば、楽しい気晴らしは運動が気分に与えるプラスの効果を増強することが示されています。

ですから、気分転換のためにジムに行くのであれば、ジョギング中に『LAW & ORDER』のようなドラマを見たり、ポッドキャストを聴いたりするのも、最悪の選択ではないかもしれません。

頑張った「感」が欲しいなら、今すぐNetflixを消そう

しかし、もしあなたが「何かをやった」という事実だけでなく、実際に「全力を出し切った」という達成感にモチベーションを感じるタイプなら、注意が必要です。

テレビのような気晴らしは、有酸素運動中の心拍数を下げるだけでなく「体感的な努力量」にも悪影響を及ぼす可能性があります。

これは、YouTubeを見ながらサイクリングした後に「なんだか物足りない」と感じた、まさに私のケースです。

もし運動の強度が思うように上がらず「やっているのに手応えがない」と感じているなら、その原因はあなたの意志の弱さではないかもしれません。

モチベーションの低下を防ぐために本当に必要なのは、ただNetflixを消し、目の前のランニングに意識を向けることだけだった、という可能性が大いにあるのです。

テレビ画面をオフにすることは、単に誘惑を断ち切る行為ではありません。

それは、あなた自身の身体の声に耳を澄まし、呼吸のリズムを感じ、一歩一歩の着地の感覚を確かめる、という「運動との対話」を始めるためのスイッチです。

その先に待っているのは、単なる消費カロリーの数値を超えた「自分の限界を少しだけ超えられた」という確かな手応えと、深い自己効力感なのです。

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Source: National Library of Medicine(1, 2), Digital Commons