日本が好きすぎて日本に帰化した元アメリカ人の応用言語学者が語る 世にも奇妙な日本語の謎』(アン・クレシーニ 著、フォレスト出版)の著者は、アメリカ・ヴァージニア州出身でありながら、25年におよぶ日本在住歴を持つ人物。福岡県宗像市に暮らし、北九州市立大学准教授の肩書を持つ応用言語学者です。

流暢な博多弁を話し、研究と並行してバイリンガルブロガー、スピーカー、ラジオパーソナリティ、テレビコメンテーターと幅広く活躍しているのだとか。日本の文化とことばについてつづる「アンちゃんの日本GO!」を西日本新聞で連載しているほか、博多弁と英語でつづるブログ「アンちゃんから見るニッポン」では、自身で発見した“日本のおもしろいこと”にも焦点を当てているのだそうです。

印象的なのは、「日本語に人生を変えられた」「日本文化に救われた」と述べている点。すなわちそれこそが、本書のバックグラウンドであるわけです。

日本に来て25年も経つけれど、日本への愛情はどんどん深まりつつある。日本が好きすぎて、とうとう2023年11月21日に日本国籍を取得した。

いまだに海外旅行に行くと、思う。

あの赤いパスポートを見るたびに、日本人であることの自分の誇りは半端ない、と。(「はじめに」より)

そんな思いに基づいて書かれた本書は、著者のことばを借りるなら「私と日本の出会いについての物語」。しかも確認してみれば、日本語を客観視した興味深い内容であることがわかります。

きょうは第3章「日本語はなぜこんなにムズカシイのか?」内の「日本人特有の上下関係を表すコトバたち」に焦点を当ててみたいと思います。

ここで大前提となっているのは「ことばは、ある文化と世界観から生まれてくるもの」だということ。たとえばいい例が、日本のビジネスシーンでも大きな意味を持つ「上下関係」です。その関係性を表すことばや概念もたくさんありますが、そもそも英語圏には「上下関係」ということばも存在しないというのです。

「先輩」「後輩」「同級生」は、どう訳す?

「先輩」と「後輩」が英訳しづらいことは有名。日本においてはしばしば、「先輩」を「senior」、「後輩」を「junior」と訳されがちですが、そういった単語は英語ではあまり使われないそうです。なぜなら、そもそも「先輩」「後輩」という関係が英語圏にはないから。

そのため、friend、teammate、classmateといった単語を使って説明するしかないわけです。また、同じように訳しにくいのが「同級生」。なにしろ、同じクラスの人も、同じ学年の人も同級生なのです。そればかりか、学年は同じだけど学校が違う場合でも同級生ということになるかもしれません。

いずれにしても「同級生」は英訳しづらい単語であり、場合によっていいかたも変わってくるようです。

名詞を使いたいなら、classmateという単語しかない。これは、学校も学年も一緒の人を示す言葉だ。

“We were classmates in high school.”

(我々は高校の同級生です)

(164ページより)

同じ学年だけど、違う学校に行っている人なら、

“We are the same age.”(同い年)

“We graduated the same year.”(学年は一緒)

(164ページより)

学年がバラバラだけど学校が同じなら、

“We went to school together.”(同じ学校に行った)

(165ページより)

このように、ちょっとした関係性の違いで表現は大きく変わってくるわけです。

また、“似たようなややこしい単語”として著者は「同期」を挙げています。職場でもよく耳にすることばですが、本当に独特な日本語であるため、あてはまる単語が英語には存在しないというのです。(163ページより)

他にもいろいろなケースが

同じ時期に、同じ会社で働き始めた場合、

“We started working here at the same time.”

“We entered the company at the same time.”

(165ページより)

では、同じ時期に同じ業界で働き始めたなら?

“We started working at the same time.”

“We began our careers at the same time.”

(165ページより)

職業を入れてもいいようです。

“We began our careers as announcers at the same time.”

“We started our careers as announcers at the same time.”

(165ページより)

同期ではなく、ただ会社が同じなら、colleague、co-workerというそう。日本語でいえば「同僚」です。

日本は上下関係を大事にする文化なので、「同級生」「同期」「先輩」「後輩」ということばが使われるのは当たり前のこと。年齢や経験によって話し方、接し方、関わり方が変わってくるわけで、そこが英語圏との違いだということです。

だから、日本では「相手の呼び名」もとんでもなく複雑だ。

「〇〇さん」「〇〇ちゃん」「〇〇くん」「〇〇先輩」「〇〇先生」「係長」「課長」「社長」など、相手の立場がわからないと、どうしたらいいのか、どう呼んだらいいのかがわからない。(166ページより)

したがって、こうした悩みも出てくるようです。(165ページより)


著者も指摘しているように、もしかしたら私たち日本人が「日本語」について深く考える機会はあまりないもの。「母語」について真剣に考えることはあまりないからです。だからこそ本書を通じ、なにげなく使っている「日本語」の魅力を再認識してみるべきかもしれません。

>>Kindle unlimited、500万冊以上が楽しめる読み放題を体験!

Source: フォレスト出版