山梨・長野の地域密着型自販機「ハッピードリンクショップ」全店舗を巡った写真家・吉村和敏さんの記録が、写真集「ハッピードリンクショップ: Happy Drink Shop」(フォトセレクトブックス)として7月8日に発売された。(甲府経済新聞)

 同書は、吉村さんが3年半かけて山梨・長野両県に展開する全1044店舗のハッピードリンクショップを撮影したビジュアルアーカイブ。繁華街の片隅から国道沿い、農道、駅前のロータリー、峠道まで、地域の風景に溶け込む多様な自動販売機の姿が収められている。

 構成は基本的にグリッド形式で、読者が店舗の分布や個性を一覧できるレイアウト。特に印象的なものは1ページ1点の大判で紹介し、個々の自販機の持つ存在感や、背景となる風景との調和などを表現している。晴天の田園、霧に包まれた朝、雪に埋もれる冬景色など、各シーンに地域の時間の流れが映し出されるのも特徴。

 吉村さんは長野県松本市出身。カナダでの滞在を経て写真家として独立し、世界各地や日本の地方を長期取材してきた。これまでに「世界で最も美しい村」シリーズや、詩人・谷川俊太郎さんとの共著絵本などを発表。風景や人物の息づかいを繊細に表現する作風で知られる。

 ハッピードリンクショップは、山梨・長野両県に根付いた自販機ネットワークとして知られ、県民にとって日常の風景に欠かせない存在。価格は100円前後と手頃で、レモンスカッシュやバナナオ・レなどレトロな商品や地域限定品が並ぶのも特徴。田畑の間や国道沿いの駐車スペースに設置されることが多く、ドライブ中に立ち寄れる「ミニドライブイン」としても親しまれている。人気アニメ「ゆるキャン△」に登場したことから観光客にも知られ、地域アイデンティティーの一翼を担う。

 運営するフローレンの菅野照彦さんは「当初は『本当にやり遂げられるのだろうか』と驚きもあったが、撮影が進むにつれ応援する気持ちが強くなった。」「単なる自販機の集合体ではなく、地域に溶け込み、日常の中でほっとできる、やすらぎの場所であることが改めて感じられた。この写真集が、身近なハッピードリンクショップを探したり、掲載店舗を巡ったり、皆さんの日々の楽しみの一つになり、今後も地元や観光で来た人々とのつながりを深め、地域の魅力に寄与できれば」と話す。

 吉村さんは「5年前にこのプロジェクトがスタートしてから、ずっと頭の片隅に自販機のことがあった。写真集が完成し、自分の中でひとつの区切りをつけることができた。『誰もやっていないことをやってみよう。今までにない写真集を作ってみよう』この気持ちだけを頼りに走り続けてきた。天気に振り回された日もあれば、どうしても店舗が見つからず途方に暮れたこともある。気力が尽きかけたこともあったが、それでも『やめよう』と考えたことは一度もない。続けていればいつか終わるだろうと。撮影した1044店舗それぞれにドラマがあり、記憶がある。果樹園の前、田んぼの脇、山のふもと、商店街の片隅。レンズ越しに見た自動販売機のある日本の風景は、すべて自分だけの宝物」と話す。

 仕様はA4変型判、98ページ。価格は3,960円。