参院選投開票日まで1週間を切った14日夜。安全保障政策や防衛予算に力を持つとされる防衛族の一人、自民党の小野寺五典政調会長は長崎県佐世保市で声を上げた。「造船業に国がお金を入れる。長年の経験がある佐世保の皆さんに協力していただきたい」

 石破茂首相は5月、米国の関心事は米軍艦の修理先であり「政府として支援していく」と表明。6月には同党が海上輸送網の強化に向けて国有造船所を整備し、民間に運営させる構想を政府に提言した。小野寺氏の発言はこうした動きの延長線上にあり「造船」「艦船修理」のキーワードは関税交渉の成否のカギの一つともされる。

 米海軍や陸上、海上自衛隊が拠点を置く「基地の町」佐世保。造船が経済を支えてきた町でもあるが、その代わりとなる経済浮揚策は“不発”が続いてきた。

 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)整備計画は不認定。新幹線のルートからも外れた。企業誘致は自治体間競争で容易にいかず、せっかく整備した相浦工業団地は売れ残ったまま−。人口減少が続く現状に市議の一人は「佐世保が生き残るには、もう基地経済しかない」と危機感を募らせる。

 ただ、ある防衛産業関係者は「防衛産業への参入は特効薬にはならない」と冷静な視線を送る。そもそも小野寺氏が言う「協力」に応える態勢として、足元をしっかりと固められてもいないからだ。

 昨年度、佐世保市は自衛隊と米軍が市内経済にもたらす効果を調べた。調査結果によると、自衛隊などから年間400億円規模の発注があるにもかかわらず、市内企業の受注額は3割強の142億円。米軍の発注にいたっては、2021年度の105億円をピークに減少しており、23年度は73億円にとどまる。