高校生のときに経験した母親の介護をモチーフにした小説で第21回「女による女のためのR-18文学賞」大賞を受賞した、上村裕香(かみむらゆたか)さん(24)。衝撃的な作家デビューを果たした彼女は、現役の大学院生だ。
「わたしは不幸自慢スカウターでいえば結構戦闘力高めなんだと思う」(『救われてんじゃねえよ』本文より)

そんな作品の主人公は「ヤングケアラーの貧困生活」から抜け出して、自分の人生を見つけていくが、作者の上村さん自身も自力で大学進学の道を掴み取ったという。介護とアルバイトに明け暮れた高校時代、そしてこれからの進路についても話を聞いた。

◆「ヤングケアラー」ではなく、「人間」を描きたかった

デビュー作「救われてんじゃねえよ」を執筆したのは、20歳のころ。

続く連作を執筆しながら、ヤングケアラーを扱ったドラマやドキュメンタリーをいくつか見ていた、と上村さんは振り返る。

「そういう作品を見ながら、自分はけっこう、ヤングケアラーは悲劇的な存在だ、というような捉え方に対して『違うよ』というか、傷つきみたいなものを感じていて。なので、そうではない形の物語を作りたいと思いました。自分の心情や、作品に存在する人間の『本当のこと』を書きたい、みたいなことはすごく思ってたので。こうやって文字として紙に刻んで、書籍として流通させることができたのは、ひとつの証になるかもしれないです。私は作品を通して、ヤングケアラーがどういうものかとか、そういうことを伝えたいわけではない。主人公の人生の断片でこんなことがあったよ、とか、リアルな目線で見たとき、介護の中にも笑いがあるんだよ、というところを書きたかったんです。それは今まで物語としてはあまり描かれてこなかったんじゃないかな、と思っていて。書くことで浮かび上がる面白さ、笑いの要素が、私にとっては大事でした」