広島で行われている陸上競技のインターハイ。その男子100mで10秒00という驚異の記録がマークされた。桐生祥秀(日本生命)が京都・洛南高3年時にマークした高校記録を12年ぶりに更新し、U18世界新記録にもなる快記録だった。実はその快挙のウラには、レース直前の「ある伏線」があったのだという。《NumberWebレポート全2回の2回目/最初から読む》
インターハイ男子100m決勝第3組で、衝撃の10秒00という高校新記録をマークした高校2年生の清水空跳(そらと)(石川・星稜高)。同年代時のウサイン・ボルトすら上回る快記録だったが、実はそこには直前に行われた第1組でのレースが大きく影響していたという。
予想外だった「第1組目」の好記録
この組に登場した菅野(すがの)翔唯(かい)(群馬・東京農大二高)は、清水と同じ高校2年生。昨秋の国民スポーツ大会では男子100m少年B(中3〜高1)で、清水と接戦を繰り広げ、0秒05及ばず2着に終わっていた。
今回の予選では10秒44で走り、清水に次いで2番目のタイムで決勝に駒を進めていた。
その決勝で先に出番を迎えた菅野が、まずビッグパフォーマンスを見せた。
「予選から改善できた。しっかり前に出られて、加速を維持し、中間から後半につなげられました」
2.4mの追い風参考記録ながら、10秒06というものすごいタイムを叩き出したのだ。
過去のインターハイ決勝では、追い風参考記録を含めてもこれを上回るタイムはない。3組目の清水にプレッシャーを与えるには十分過ぎる走りだった。
清水は、3週間前の日本選手権でU18日本タイ記録となる10秒19をマークし勢いに乗っているとはいえ、菅野の記録を超えるには自身の記録を0秒13以上も更新しなければならない。
スプリント種目で全国トップを争うレベルの選手が、それだけ一気に記録を伸ばすというのは至難の業である。「よほどの“神風”が吹かなければ菅野を上回るのは難しいのでは」というのが大方の見方だったのではないだろうか。
だが、清水は信じられないほど強靭なメンタルの持ち主だった。
「目標では(自己記録の)10秒19を切るって宣言していたんですけど、決勝1組目の菅野君に10秒06を出されて、『負けたくない』という気持ちが一番にありました。でも、それで力んでしまうとは考えたくなかったので、決勝の前は『自分のレースを絶対に作る』『9秒台を出す』という気持ちでした。もう1段階、ギアが上がったっていう形ですね」
プレッシャーを感じるどころか、気持ちを切り替えて、自分の走りに集中した。
「スタートしてからの40mまでが、今までで一番完璧だったと思う。しっかり乗り込んで、力強く、中心部分を使って走れたと思います」