サブスクで映画を観ることが当たり前となりつつある昨今、その豊富な作品数故に、一体何を観たら良いのか分からない。そんな風に感じたことが、あなたにもありませんか。本コラムでは、映画アドバイザーとして活躍するミヤザキタケルが水先案内人となり、選りすぐりの一本をあなたにお届け。今回は2008年製作の『ジャージの二人』をご紹介します! 


『ジャージの二人』(2008年・日本)
(配信:U-NEXT)

芥川賞作家・長嶋有の同名小説を、『アヒルと鴨のコインロッカー』『ゴールデンスランバー』『見える子ちゃん』などで知られる中村義洋監督のメガホンで映画化。会社を辞めたばかりで無職の息子32歳(堺雅人)と、グラビアカメラマンの父54歳(鮎川誠)。猛暑を避けるべく軽井沢の避暑地を訪れ、それぞれに問題を抱えていながらも、特に何かするわけでもなくゆったりと日々を過ごしていくのだが……。

数々の映画作品やNHKの大河ドラマ「篤姫」の出演を機に注目を浴び始めていた頃の堺雅人と、日本ロック界のカリスマバンド “シーナ&ロケッツ”の鮎川誠が父子を演じる本作。ともすれば、何も起きないユル〜い脱力系の作品と捉える方もいると思う。が、そのユルさの裏側にはさまざまな人間模様が詰まっている。会社を辞め、妻に浮気をされた息子。数度の結婚と離婚を経験し、夫婦関係に悩む父。それらの要素が深掘りされて描かれていくわけではないのだが、それぞれに問題を抱えた二人は軽井沢の山荘で別段何かするわけでもなく、共に日々を過ごしていく。その描き方が秀逸なのである。

ジャージに身を包み、自然豊かな山荘で生活し、携帯電話の電波からも解放され、日常の人間関係などから解き放たれる。そうして余計な情報を全てシャットアウトできる環境に身を置いているからこそ、自分自身の思いと向き合わざるを得なくなる。一見何もしていないように見えるけど、何かをするために必要な時間を彼らは過ごしているのである。そして、劇中のユル〜い時間を経て、彼らは再び日常へと帰っていく。そういった心を休める時間の大切さをユル〜く示してくれるやさしい作品です。心が疲れてしまっている時に是非。

(C)2008「ジャージの二人」製作委員会
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