精神科に行くと抗うつ剤を処方された。不安感はやわらいだが眠気がひどくなったので「服薬をやめてカウンセリングを受けたい」と希望した。2回目のカウンセリングでカウンセラーに言われたことが、転機になる。
「生きづらかったのは愛着障害が原因です。お母さんの軽度の知的障害により引き起こされたものです。あなたのせいではありません」
愛着障害とは、乳幼児期に親や養育者から十分な愛情やケアを受けられず、愛着関係を築けなかったことが原因で起こる障害だ。対人関係が不安定になったり、感情の抑制が難しくなったりする。
「母親のせいだとはっきり言ってもらって、うれしいっていうのもあるし、診断名が付いて安心したっちゅうのもある。その反面、本当にそうなのかとも思って、愛着障害のことを勉強したよ。愛着って、人間関係の一番の大元なの。自分はその基本的な信頼が育っていなかったから、他者が怖かったんだな」
笑う練習をして感情を取り戻す
10回目のカウンセリングで「佐野さんは表情がないね」と指摘され、子どものころから感情を押し込めて生きてきたことに気が付いた。
すぐにテレビで喜劇映画などを観て、笑う練習を始めたという。佐野さんは「最初はフッフッて感じよ」と再現してくれたが、片方の頬がゆがんだ苦笑にしか見えない。
「1か月ぐらいして、近所中に響き渡るような大声で笑えるようになってな。自分で考えてやったことがうまくいって成功体験だと思えた。自分に自信がついたら、それをきっかけに感情がドッと出てきてさ。親に対する怒りとかも出てくるようになったよね。なんであのとき、抱いてくれなかったのって。