『ど根性フェス!2』2025.6.7(SAT)大阪城音楽堂


『ど根性フェス!2』が、2025年6月7日(土)に大阪城音楽堂で開催された。関西の名物イベンターである清水音泉が主催する野外イベントが台風や大雨に襲われがちなことから、奥田民生が最初から雨天を想定して”ど根性”で耐えきるフェスを提案したことから実現して、今回で2回目となる。といった流れを、清水音泉の番台こと代表である清水氏が前説で話していく。


本家”ど根性”こと人気漫画『ど根性ガエル』がフロントに描かれ、バックには出演者たちが描いた『ど根性ガエル』をデザインしたTシャツが開場中に売切れてしまった嬉しい悲鳴も! カレーやうどんやアルコールなどと共に、偶然にも「ど根性コーヒー」と命名された京都のライブハウス「KYOTO MUSE」チームが販売するブースなども丁寧に説明されていく。「出演者が観客エリアで鑑賞することも多々あるので、干渉しないで上げて下さい」といったアナウンスもとても良かったし、何よりも完全に守っている観客皆様という関係性は本当に良かった。


今回の裏テーマとしては、60歳を迎える出演者4名のお祝いと、9月20日(土)に二度目の日本武道館を行なうフラワーカンパニーズへの激励という旨も発表される。場内では、RCサクセション「雨あがりの夜空に」、くるり「ばらの花」、大江千里「Rain」などなど雨をテーマにした楽曲がBGMとして流れるが、まさかの晴れ……。このあたりのユニークな裏切りも清水音泉らしい。





TOMOVSKY


御本人いわく一番ガエルことTOMOVSKY(以下、トモフスキー)。開場前の朝イチから御機嫌なリハーサルをぶちかましていたが、本番もトランペットのファンファンを始めとしてサポートメンバーの跳ねたリズムが最高に気持ち良い。朝11時30分、出番にも関わらず、すでに出演者たちが1曲目「我に返るスキマを埋めろ」から観客エリアで観ている。この後に出番を控えた大阪の若手バンドであるTETORAがライブの登場SEで自身の「SKIP」を使っていることを照れながら話して、その「SKIP」へ。もちろんTETORAのメンバーもじっと観ている。当たり前が誠に良い曲だし、静かに沁みわたっていく。「夜中に一度、風がとまる」終わり、思わずマイクを通さず喋り出すが、最初のバンドが押すと良くないと、エッジが効いた「人生は無限だ」へ。

「計画なんてしてたら、俺も民生君もはる(大木温之)も還暦を迎えられないよ!」

そんな名言からの「無計画とゆう名の壮大な計画」をやり終えたところで残り9分。急げとばかりに進んでいき、「脳」ではサバシスターのなちが登場! 親子ほどの年齢が離れているふたりが音楽で繋がって、一緒に歌っている姿は美しい。


残り1分で「ほたるの光」をロックンロールバージョンで鳴らす。これリハーサルから聴いていたのだが、〆を告げる曲のはずなのに心身・脳ともに元気に跳ねてしまうアレンジで最高であった。最後はTETORAメンバーが還暦お祝いのトロフィーを手渡しして、〆! 一番ガエルから楽しすぎる祭が始まった。

TETORA


二番ガエルは、先程登場したばかりのTETORA。実演されたばかりの「SKIP」で再度登場する。ボーカルの上野羽有音が「大好きなバンドの後、丁寧にやらせてもらいます」と伝える。それこそじっくり丁寧に歌っていくが、「今さらわかるな」では語りかけるように歌いながら、トモフスキーの「我に返るスキマを埋めろ」を歌詞に入れていく。今しか歌えない歌を聴けている貴重さがある。


上野本人は、大好きなバンドが出過ぎてむちゃくちゃ緊張すると話す。普段は、そんなことを言わないらしいが、だからこそ真摯・誠実さが届く。トモフスキーやピーズをずっと学校の行き帰りに聴いていたこと、若造だけど堂々と胸を張って立っていることなど、年配の観客層を意識してか、これまた丁寧に語りかける。

「ど根性フェスの一部になりにきました!」

この言葉には、まさしく年配層のひとりである私にも完璧に突き刺さった。誰もが彼女たちの真摯・誠実さを理解したはずだ。


「バカ」「言葉のレントゲン」といった曲たちからは、骨太さ重厚さ荒々しさを感じまくった。個人的には「1月」でトモフスキーのメロディーを感じて、本当にルーツなのだなと、勿論ただ似ているなどではなくて血となり肉となりTETORAの音楽の骨格を築いていることが重々わかった。ラストナンバー「レイリー」も年齢関係なく心若い人々に届けたいという一心が素晴らしかった。若者らしい潔いライブ。


サバシスター


三番ガエルとして勢いよく飛び出てきたのはサバシスター。リハーサルではメンバー全員で『ど根性フェス!』手拭いをほっかむりにしてキュートであったが、1曲目「スケボー泥棒!」もキュートさそのままに鳴らしていく。続く「ナイスなガール」で、なちの鳴らすギターの格好良さに目を見張っていたが、その流れからの「22」では、なち&るみなすのWギターヒーロー感に目が釘付けとなる。ごうけのドラムも若さ溢れているし、コーラスも心地良い。


なちはさきほどのトモフスキーとの共演について急遽決まったことだったと振り返りながら、今日は還暦の人たちがたくさんいる中で、自分は新入社員の年齢だと明かして、ロックンロールナンバー「ヘイまま!プリーズコールミー」へ。前回の大阪城野音では私服で演奏していて、ピーズのTシャツだったことも話す。「サバシスターらしくバチバチにやっていきたい! 立ってくれたら嬉しい!」と真正面から投げかけると、見事に観客たちが立っていく。


この日歌った「覚悟を決めろ!」ではないが、本当に覚悟を決めて向き合っていることが心に響いてくる。ちょっとアウェイかなと予想していたことも素直に伝えて、その上で観客みんなが温かいことに感謝を述べる。ラストナンバーはCMソングでもお馴染み「ハッピーになって」。年配の身からすると我々が愛する音楽を、若者が愛していることも知れて、心からハッピーな時間であった。


フラワーカンパニーズ


四番ガエルはフラワーカンパニーズ。雨天前提のフェスながら全く雨が降らないかと思いきや、フラカンが会場に到着すると、雨がポツリと降り出すものだから愉快である。が、リハーサルでは、本気でお祭り騒ぎに挑んでいることがビシバシと感じ取れたし、ベテランとヤングが混じり合い切磋琢磨して化学反応を起こしていく『ど根性フェス!』の魅力にも改めて気付く。ベースのグレートマエカワは首に赤い羽根飾りをして登場するが、よくよく観るとミャクミャクのコスプレであり、そのベテランならではの芸の細かさに感心してしまう。


1曲目から今年発表のニューアルバムから「少年卓球」を鳴らすあたりに、今のフラカンが最高であることがわかる。ボーカルの鈴木圭介は『ど根性フェス!』というネーミングに触れて、今一番時代に合わない言葉だと笑うも、「根性があれば何でもできると言われた世代。根性丸出しで最後までやりたいと思います!」と宣言。「深夜高速」では、ど根性というか火事場の馬鹿力というか、どちらにしても昭和の言葉であるが、気合いの入りまくった咆哮が炸裂する。その後の穏やかに歌われる「感情七号線」は、緩やかながらも激しさが際立った「深夜高速」との緩急が効いていて、とても印象に残った。



9月20日(土)の日本武道館公演についても話して、ライブ後にマエカワが直接手売りすることもアナウンスされたが、この実直さがあるからこそ、大きな夢が実るのだなと何だか嬉しかった。1曲目同様、今年のニューアルバム収録の「ラッコ!ラッコ!ラッコ!」で、再度今のフラカンが最高であると理解できた。


ラストはハードなロックナンバー「JUMP」をぶっ放すあたりも最高である。終わりは、サバシスターのなちから日本武道館大成功を祈願するダルマが贈られて、その場で片方に目を入れる。圭介が進行役の清水氏の頭にダルマをぶつける昭和ならではのベタな場面も最高であった。余談だが、マエカワのミャクミャクコスプレを、GRAPEVINE・田中和将(Vo.Gt)は「凄いっすね」と漏らしたとのこと。昭和世代の凄みを感じられた。


GRAPEVINE


五番ガエルでは、そんなGRAPEVINEが登場。リハーサルから田中、西川弘剛(Gt)、亀井亨(Dr)、金戸覚(Ba)、高野勲(Key)という鉄壁のメンバーが、外タレかと思うほどのド迫力な音を鳴らしている。田中のブルージーな歌声も凄みあり、高野が奏でるテルミンも凄みしかない。グルーヴに溢れて、そして、しなやかさも感じるライブ……。「言わずと知れた大阪から出てきたバンド」と言いながらも、「上方を裏切って東京に出ました」とも言うが、その後に言っていたように、今回みたいに年に何度も大阪に帰ってきてくれるから、地元の人間としては大変に喜ばしい。



『ど根性フェス!』初出場ながら、ベテランと若手の組み合わせという仕組みを説明しつつ、「なんと! 我々若手枠です!」と田中は言い放つ! 久しぶりの若手枠だと笑いながらも、「パイセンの背中を見つつ若手として頑張っていきたい!」と意気込みも! そして、鳴らされる「天使ちゃん」のグルーヴィーなサウンドに、「あざす」と不敵に歌われる一声目を聴くと、とんでもなく実力を持った若手過ぎて腰を抜かしてしまう。



続く「ねずみ浄土」でも、粘りある音、粘りある歌をじっくりどっしりと聴かせてくれる。終わりに凄みを讃えるか如く、自然に観客から拍手がわく。蒸し暑さはありながらも曇りがかった天気が続いていたが、このあたりで西陽がきつくなり、晴れ始める。「世代なんて超えていこうぜ!」という一言から「超える」につなぐ粋な流れから、最後は「光について」。99年という彼らが真の若手枠だった頃の曲だが、それをキャリア約30年の今、鳴らす。絡みつく言葉とメロディーは、ずっと珠玉の名曲である証拠。9月23日(火祝)に再び大阪城音楽堂の地に、それもワンマンライブで戻ってくることを告げて、颯爽と去っていった。


奥田民生


六番ガエルは、このフェスの言い出しっぺ、いや創設者と言っても過言ではない奥田民生。この日、唯一の弾き語りとして、ひとりで現れるが、当然のことながら、存在感はとてつもない。西陽がなくなったことに安堵しながら、雨降る前提のフェスであり、いつかは悪天候の大惨事をとジョークも飛ばすが、『ど根性フェス!』が少しでも長続きすることを思ってくれていることが何よりもグッとくる。「愛のボート」から始まり、続くは「雲行きが気になって見ていたら」と歌われる「野ばら」。<天気予報>や<小雨を降らす>という歌詞からもわかるように、雨を歌ったもの。フェステーマに合わせた選曲にたまらなく興奮してしまう。その興奮も冷めやらぬ中、MCでは楽屋エリアに年寄りばっかりなこと、本当に歳を取ったことなどを、独特の民生節でぼやく。袖からは同い年のピーズチームが愛ある野次を飛ばす。微笑ましい光景……。


「雨なのに」と歌い出す「コーヒー」。雨の歌が続くのが、本当ににくい。<もう30だから>という歌詞は、<もう還暦だから>と歌詞を変えて歌われる。「30年経っとんか。まさか<還暦だから>と歌う日が来るとは」と本人も驚いていたが、何よりも30年ずっと格好良く活躍し続けてくれていることに感激である。「今のが「さすらい」っていう曲でしてググって下さい!」というドギツイジョークも最高である。気が付くと、ほとんどの出演者たちがステージを観ている。雨が降ろうが降らまいがなどと言いながら、「毎年続いて欲しいと願っています」という言葉も重みがあった。


最後に「愛のために」を歌い帰ろうとする中、GRAPEVINEから還暦祝いのトロフィーが授与される。田中は、今日を雨と踏んで「野ばら」「コーヒー」が歌われたことを最高でしたと述べて、まだまだパイセンが元気でいてくれることが支えであり背中をみて行かせていただきますと、ありったけの感謝を伝えた。若手枠最年長のGRAPEVINEによる言葉には、特に愛情と敬意が存分に込められていて、個人的にとても胸を打つ関係であった。

家主


七番ガエルは家主。リハーサルから轟音が聴こえてくる。そのまま袖へはけることなく、本番が始まる。1曲目「SHOZEN」からブッ飛ばされるが、続く「きかいにおまかせ」では兎にも角にも田中ヤコブ(Vo.Gt)のギターが凄い。ギターがうなっている。そんな凄腕にも関わらず、ヤコブは喋り出すと、「裏ではるさんが歯磨きして準備していた」など何気ない話になるのだが、そのギャップも何だか良い。



6月16日に発表された新曲「YOU」もこの日、一足早く披露された。岡本成央のドラムも相変わらず冴えまくっていてドカドカ鳴る音に、ヤコブのグッドメロディーが光る「茗荷谷」。「家主のテーマ」は聴いているだけで、勝手に体が飛び跳ねてしまうが、舞台袖の方を観ると先程話題にあがっていたはるも袖から観ている。ヤコブだけでなく、ベースの田中悠平・ギターの谷江俊岳も作詞作曲して、それぞれ歌うのも魅力だが、田中悠平作詞作曲の「生活の礎」では、ヤコブがギタリストに徹していて、谷江と自由に気持ち良さそうにギターを弾いている。


谷江作詞作曲「マイグラント」では、これまたヤコブが気持ち良さそうに最早狂い弾きと呼びたくなるほどギターを弾きまくる。そんな凄技を魅せた後のMCでは、会場最寄り駅の大トイレの方に某有名駅弁を忘れたと言うヤコブ。何を聴かされてるんだと思いつつ、続く拓けたポップナンバー「NFP」に心を掴まれ、その上にヤコブのシャウト、いやス、スクリームが爆裂しまくる……。「じゃあ! 次はピーズです! みんなで楽しみましょう!」とラストナンバー「オープンカー」を鳴らして去っていったが、ポップキャッチーながら桁外れなハードな轟音に、全員が虜になったであろう。


ピーズ


いよいよ八番ガエルこと大トリのピーズ。「おつかれちゃんです。もうすぐ終わるからね」とのんびりリハーサルで話すも、さらっと名曲「実験4号」を歌ったりするのが素敵である。リハーサルから袖に戻ることなく、ぬるっと1曲目「グライダー」が歌われるが、聴き入ってしまう。曲終わり話し出すと、ちゃんとゴミを片付けて帰ったら、また大阪城野音を貸してもらえるとか、入場料を出演8組で割って一組幾らだとか他愛もないことだが、「還暦ドリーミン」なんて言って、さらっと「赤羽ドリーミン」へ。


還暦同い年のギターの安孫子義一といつもどおり戯れながら、ベースの岡田光史とドラムの茂木左が46歳と36歳だと年齢をもとにうだ話をしていく。また、作ったばかりだという「還暦ロック」を披露することに。その前にスタッフにマイクを取り替えられると「おじいちゃん、入れ歯臭かったですか? 理由を言って下さい」といちいち引っ掛かりなかなか進まないが、ヤコブも言っていたように、ちゃんと本番前に歯磨きをされていたことを念の為ここにも書いておきます。



そんなことはさておき、肝心の「還暦ロック」だが、「監獄ロック」的なギターリフが特徴的なロックナンバー。その後も電気が明るすぎると言い出して、全部消してもらい闇鍋と表現する。以前から酔拳的佇まいに魅了されていたが、この日は還暦という魅力も加味されてか、より自由な素晴らしさがあった。ラストナンバーは「生きのばし」。終わり近く観客エリアで観ていた家主のメンバーたちが舞台袖へと急いで走って行く。ということは……、ライブ終わりの展開が楽しみになる。曲終わり「撤収〜!!」と去っていく。


すぐ出てきてアンコール。せっかくだから後1曲やって帰ると言って、「ドロ舟」へ。昔ながらのロックンロールが今もなお格好良く聴ける幸せさを感じる。終わり、「さぁ帰ろ〜」とさっさと帰ろうとするはるさん安孫さんを清水さんが呼び止めて、還暦お祝いトロフィーの授与式へ。本日最後のプレゼンターは家主。はるが「家主!」と言えば、ヤコブは嬉しそうにタオルを振り回している。なんて平和な情景なのだろうか……。


もう終わるっていうところなのに、はるが清水さんに『ど根性フェス!』の由来を質問して、まるでデジャヴかのように、夜8時近くながら朝11時過ぎのできごとを思い出す。それにしても一度も本格的な雨降りはなかった。質問に答えた後、清水さんはこう言った。

「また、こんなイベントを作れるようにがんばります。我々も長生きしますんで、みなさんも長生きして下さい」

ついついピーズ「生きのばし」の<生きのびてくれ>という最後の歌詞を思い出す。ど根性を出すのは何だかんだしんどいけれど、これからも『ど根性フェス!』を観れるのであれば、ど根性を出して生きてみようかなんて何となく思いながら会場を後にする。これからも『ど根性フェス!』を観れるならば、ちょっとくらいの雨はど根性で耐えようではないか。まぁ、やっぱり雨が降らないにこしたことはないけど。ともかく来年以降も『ど根性フェス!』開催をお願い致します。

取材・文=鈴木淳史 写真=清水音泉 提供(撮影:オイケカオリ)