◇ハルク・ホーガンさん死去

 ロックバンドのベーシストからプロレスラーに転じたハルク・ホーガン氏のリングネームは、米国の人気アニメ「超人ハルク」にちなむ。身長2メートル1、体重137キロの巨躯(きょく)。リング上でトレードマークの黄色のTシャツを、丸太のような腕で引きちぎると、はち切れんばかりの褐色の肉体が溢(あふ)れ出た。それ自体が上質のパフォーマンスだった。

 それを模倣したレスラーがいた。元横綱の北尾光司氏である。デビュー戦でホーガン氏と同じように黄色のTシャツを引き裂いた。ところが、観客が目にしたのは、まだ絞り切れていないたるみの残る肉体。かくしてホーガン流パフォーマンスは失敗に終わった。

 あの圧巻の肉体をつくり上げるのに、どれだけの時間と労力を要したことか。本人は16年間に及び、筋肉増強剤を使用していたことを認めている。それが、どれほど彼の健康を蝕(むしば)んだのかについては定かではないが、プロレスをエンターテインメントに昇華させた功績について異存のある人はいないだろう。

 個人的に忘れられないのは、1981年5月10日、後楽園ホールでのスタン・ハンセン戦だ。これが“超人”と“不沈艦”の初対決だった。ホーガン氏の必殺技はアックスボンバー。直訳すれば“斧(おの)爆弾”。腕を直角に立て、ヒジの部分を相手の顔面に叩き込む。

 片や先輩のハンセン氏はウエスタン・ラリアット。こちらは水平に伸ばした腕で、相手の首を刈る。野球で言えば、ダウンスイング気味に腕を振り抜く。