弘前大学大学院保健学研究科の櫛引夏歩助教(心理支援科学専攻)が参加する研究グループは、一人でいても前向きな考えができる教育プログラム「e−BOCCHI(イーボッチ)」を中学校の授業で実施し、一定の成果を上げている。親しみやすいキャラクターを教材に使用し、「ひとりぼっち」でも自分らしく過ごすことや、一人でつらい時には助けを求めることの大切さを伝えている。
筑波大学の太刀川弘和教授を代表とする全国の研究者25人による共同プロジェクト。科学技術振興機構(JST)の助成を受けて2023〜25年度に行っている。孤独感によるメンタルヘルスの悪化を社会全体の問題と捉え、心身の不調を予防する目的で、プログラム開発に取り組んだ。
櫛引助教は、教材に登場するクマのキャラクターを考案。孤独、孤立、孤高といった抽象的な概念を視覚的にイメージしやすく、印象に残るよう工夫した。
授業は23年、茨城県笠間市の中学校数校で、3回の構成で行われた。ストーリー仕立てで展開し、一人でいることが悪いことだと思っている「コドクン」と、一人でも充実した毎日を送る「ココー」を対比させ、「ひとりぼっちは悪いこと」という先入観を取り除き、いざとなったら周囲にSOSを求めることの大切さを説明した。
授業前後の心理アンケートでは、孤独や抑うつに関するスコアは減少した一方、「援助要請」(困ったときにSOSを出せる力)と、「自尊感情」(自分自身を価値ある存在として認め尊重する気持ち)が向上するなどプログラムの効果が確認された。生徒からは「ぼっちは悪いことだと思っていたが、そうでないことが分かって良かった」と前向きな声も寄せられた。
笠間市では本年度、全中学校でプログラムが導入されている。研究グループは現在、学校に来られない不登校の子どもにも対応できる教育プログラムの開発も進めている。
櫛引助教は「私たち研究グループは、一人でいても健康に、創造的な生活を送れる『個立』を提案している。多くの学校現場でe−BOCCHIが広まり、子どもたちの人生が少しでも豊かになることを願っている」と話した。