投開票日の20日夜、勝利の余韻が残る無所属現職芳賀道也(67)の選挙事務所で、連合山形の幹部は気を引き締めた。大敗を喫した自民党内では、早くも首相の退陣論が噴出していた。相手はトップをすげ替えて刷新感を演出し、党勢復活を懸けて衆院解散・総選挙に打って出るのではないか―。「早急に協議を進める必要がある」。候補者不在の衆院県1区を念頭に、連合山形幹部は次の戦いを見据えていた。

 県内で立憲民主、国民民主の両党県連と連合山形は、議席獲得のために協力体制を構築している。衆院では選挙区ごとに候補者をすみ分けて擁立してきた。1区は先の衆院選で立民の新人が敗れて以降、候補者不在の状態が続く。

 参院選の決戦直前、衆院選との同日選もささやかれ、擁立作業は加速。芳賀と連動することで「大きくアピールできる」(立民幹部)と踏んだ。芳賀の総決起集会が開かれる先月15日をめどに、ギリギリまで調整を続け、1区同様候補者不在だった3区では、同14日に新人落合拓磨の擁立にこぎ着けた。ただ1区は最後まで調整できなかった。

 立民県連代表の高橋啓介は芳賀の当選直後、報道陣から今後の対応を問われ、「まだ模索中だ。国民県連や連合山形と協議したい」と述べるにとどめた。立民の支援団体幹部は「県都の山形市を抱える1区で候補者を立てないと、存在感がなくなってしまう」と危機感を口にした。ただ、自民現職遠藤利明も、昨年から続く逆風もあり、相手は不在でも油断はできない状況だ。自民の中枢を担う重鎮の一人だが、年齢や多選への批判がないわけではない。

 候補者となった落合は、参院選で立民の比例票掘り起こしに注力しつつ、芳賀の遊説に積極的に同行した。だが、出番は限られ、終盤に入り、酒田市で開かれた個人演説会でようやくマイクを握った。落合は「応援弁士に立てたことは自分にとって大きな一歩。まずは裏方に徹する」と前向きに捉え、今後、芳賀との連携拡大に期待を寄せた。

 一方、惨敗した自民の受け止めはさまざまだ。衆院議員加藤鮎子の地盤である鶴岡市で、党公認の新人大内理加(62)の得票は芳賀に及ばなかった。地元の自民関係者は危機感を強める。国政選挙で自身を含め、自民候補の得票が相手より下回るのは2016年参院選以来だからだ。

 逆風は党だけではなく、加藤にも向かう。選挙期間中、党務などを理由に加藤が自身の選挙区で活動する時間は限られた。支持者の一人は「昨年の自分の選挙を忘れたのか。地元に張り付いて、一生懸命戦う姿を見せるべきだった」と指摘する。

 県2区が地盤の復興副大臣鈴木憲和はこの1年、公務の合間を縫って地元入りした際、多くの会合に大内を帯同させた。「思いを同じくする味方が必要だ」と、自身の国政報告以上に大内のアピールに力を入れた。参院選の影響について、鈴木の周辺は「順調に実績を重ねているから大丈夫だ」と意に介さない。

 鈴木と戦って敗れ、比例復活した国民の衆院議員菊池大二郎は、芳賀の選対本部長代行として奔走。芳賀と各地を駆け回り、足場づくりに汗を流した。支持者からは「まるで自分の選挙をしているようだ」との声が漏れた。ふたを開けてみれば、県2区の得票数は朝日町を除く全市町で芳賀が大内を上回った。

 首相石破茂の退陣が不可避の情勢となり、政局は混迷を深める中、県内では次期衆院選に向け、既に動きが始まっている。(文中敬称略)=おわり