喫煙などが原因で発症し、呼吸機能が低下する「慢性 閉塞へいそく 性肺疾患(COPD)」の新しい治療薬が、今年3月に登場しました。せきや息切れなど症状の悪化を繰り返す患者に効果が期待されます。(松田祐哉)

肺胞が破壊される

慢性閉塞性肺疾患(COPD)の新治療薬…炎症起こす結合妨げる

 COPDは、喫煙や大気汚染で有害物質を長期間吸い込むことで、空気の通り道の気管支に炎症が起き、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞が破壊される病気です。せきやたん、息切れなどの症状が表れ、風邪などをきっかけに症状が急激に悪化して、命にかかわることもあります。

 50〜60歳代で発症することが多く、徐々に進行します。国内には530万人以上の患者がいると推定されますが、治療を受けているのは36万人程度とされます。

 治療には、気管支を広げる薬や炎症を抑える吸入ステロイド薬が使われます。ただ、これらの薬を使っても症状が治まらないことがあります。新たな治療薬として、「デュピクセント」が今年3月から使えるようになりました。これまでの薬と異なり、「サイトカイン」という炎症に関わるたんぱく質の働きを抑えます。既にアトピー性皮膚炎や気管支ぜんそくなどアレルギーが原因で炎症が起きる病気の治療に使われています。

 体内に異物が侵入すると、外敵を排除する免疫細胞が反応して大量のサイトカインを放出します。サイトカインと結合した気道の細胞などが活性化して炎症が起きます。COPDでも一部の患者に同じような仕組みで炎症が生じていると考えられています。デュピクセントは、この結合を妨げ、炎症を抑えます。

 40〜80歳の患者931人を対象にした臨床試験で、デュピクセントを投与した患者では、投与しなかった患者に比べ、呼吸困難など急激な症状悪化の頻度が約3割減少したとの結果が出ました。奈良県立医科大教授(呼吸器内科)の室繁郎さんは「ぜんそくと同様の仕組みで炎症が生じている患者には症状の改善が期待できます」と評価します。

2週間に1回投与

 デュピクセントは2週間に1回注射で投与します。注射型とペン型があり、自分で打つこともできます。これまでの薬と作用する仕組みが異なるため、厚生労働省は、適正に使用するための指針を作成しています。使用できる患者は、気管支拡張薬と吸入ステロイド薬を3か月以上併用しても症状の急激な悪化が起き、炎症に関わる免疫細胞が一定数以上確認されるといった条件があります。

 東京都八王子市の自営業、谷合明雄さん(77)は20歳代から約30年間の喫煙歴があり、50歳代でCOPDと診断されました。以降、禁煙し、20年にわたり気管支拡張薬と吸入ステロイド薬を使ってきました。しかし、ここ数年、症状が悪化し、4月からデュピクセントの注射を受けています。谷合さんは「今までせき込んで息苦しくなることがありましたが、せき込む回数が減って楽になりました」と話します。

 慶応大教授(呼吸器内科)の福永興壱さんは「従来の治療では症状の悪化を起こしていた患者に効果を発揮する可能性があります。治療を希望する人は、専門の医師に相談してください」と勧めています。