[戦後80年]戦争と演劇と<3>

 主に亡霊が主人公(シテ)となる「夢幻能」で、戦争をどう描くか。A級戦犯として処刑された陸軍大将の板垣征四郎と、原子爆弾の開発を主導した米国の物理学者、ロバート・オッペンハイマー。この2人がシテとなった能が8月、東京・目黒の喜多能楽堂で相次いで上演される。(武田実沙子)

 日本が敗戦を迎えた8月15日に上演されるのは、現代美術作家の杉本博司が「杉本修羅能」と銘打って手がけた「巣鴨塚 ハルの便り」。「歴史意識が煮こごりのように結実したものができるのではないか。ここで作っておかないと、後世につながらないという使命感を持った」と上演を決めた理由を語る。

 文楽をはじめ日本の古典芸能に精通する杉本は長年、米国に住み、「なぜ、ばかな戦争をしたのか」とよく聞かれてきたという。その問いに「自分なりの説明を」と研究を続ける中、亡霊が心中を明かす夢幻能に行き着いた。

 夢幻能のうち、修羅能とは、武士の亡霊がシテとなる演目のことで、「平家物語」を題材に、源平合戦に関わった武将が登場することがほとんどだ。

 「源平合戦から80年ほどたった頃、琵琶法師が平家滅亡の悲しい曲を歌い始める。太平洋戦争から80年たち、導かれるように、能にしておかなければと思った」と杉本。「戦争体験は風化し、源平合戦と同じような話になってしまうのでは」という危機感も持っている。

 主人公にしたのは、陸相や朝鮮軍司令官などを歴任した板垣征四郎(1885〜1948年)。極東国際軍事裁判(東京裁判)にかけられ、巣鴨拘置所に収監されていた際に、自身の一生を振り返って詠んだ漢詩から着想を得た。