〈 『カメラを止めるな!』の大成功を目の当たりにして始動した『侍タイムスリッパー』の企画に、いつもは反対する時代劇のスタッフたちが身を乗り出した理由とは 〉から続く

 東映京都撮影所の協力を得て、貯金と自家用車を売却して資金を工面した『侍タムスリッパー』はついに完成した。安田淳一監督は、『カメラを止めるな!』の軌跡をトレースするべく、ミニシアター公開にこだわった――。いま日本映画界を第一線で支える映画監督たちに8ミリ映画など自主映画時代について聞く好評インタビューシリーズ。(全4回の4回目/ 最初から読む )


安田淳一監督 ©藍河兼一

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真剣を使って戦っていると錯覚させる作品に

安田 この作品にも自分なりのエポックメイキング的なことをやりたいというテーマがあって。それは、時代劇映画史上で最も、本当に真剣を使って戦っているとお客さんが錯覚する作品にしようという。劇中劇で竹光を使うところを描いておいて、最後は真剣を使うという設定を展開したら、お客さんは真剣やと思って見てくれるんちゃうかなと。

 真剣で戦っている2人が本当の侍がいるように見えたというお声をいただいた一方、怒られもしました。勝新太郎さんの映画『座頭市』で真剣を使った事故があるのに、なんちゅう映画を撮るんだ、みたいなことで。ある意味、本当に真剣を使って撮影されているという錯覚を持ってもらう効果が出すぎて、「なんていう映画を撮ってんねん」という感じになっていると思うんです。

——もう一人のタイムスリッパーがなぜ時代劇を捨てたかというと、人を斬る感触がトラウマのようによみがえってくるからという理由が、とても納得できる答えでした。

安田 後から来るタイムスリッパーの方にどうやってお客さんに感情移入させるかというところは結構考えたんですよね。単なる敵役でもよかったんですけれども、それだと真剣で立ち会った時、主人公が危ない時しかお客さんはドキドキしないわけです。だけど、両方に共感できるように物語を作っておくと、対決時にどう転んでもドキドキして見てもらえるので。最後は黒澤明監督の『椿三十郎』のオマージュです。だから「あれはすごいですね」と言われたら「あれは黒澤明さんの手腕です」と言っているわけですけれど。『椿三十郎』のオマージュと分からんと普通に見ている人たちは、普通にドキドキするわけです。知っている人が見ると、「一撃で血がドバッと出て死ぬやんな。そういう結末になるんか」と思ってドキドキする。どちらにしろドキドキから逃れられない、そういう仕掛けになっているんです。