昭和40年代の野球少年にとって、プロ野球オールスター戦はまさに“夢の球宴”だった。
ナイター中継がオールスター戦だけは試合前に始まった。特別なお祭りムード。ベンチには各球団のスター選手が顔をそろえている。長嶋茂雄、王貞治ら巨人の選手と共に、阪神・田淵幸一、広島・衣笠祥雄、中日・谷沢健一、大洋・松原誠ら。ライバルが和気あいあいと並ぶ光景だけで胸が躍った。
そんな夢の球宴の記憶の中で断然突出した出来事が1971年、阪神の左腕・江夏豊が成し遂げた“9連続奪三振”だ。
球宴のルールで、投手は最長3回までしか投げられない。その3回、計9人の打者全員から三振を奪うのは投手たちの夢だったが、誰ひとり果たせなかった。相手打線も各球団の主力打者ぞろい。無失点に抑えるだけでも大儀だ。その偉業に敢然と挑戦したのがプロ入り5年目の江夏だった。
江夏は67年、入団1年目から42試合に登板。12勝を挙げた。2年目には25勝、プロ野球新記録の401奪三振。最多勝と奪三振王、さらには沢村賞にも選ばれた。20歳にして江夏は球界最高の左腕にのし上がった。
70年までの4年間で73勝を稼ぎ、奪三振は1128に達した。この70年のオールスター戦で江夏はセ・リーグファンを歓喜させる熱投を演じた。
第1戦、パ・リーグは先頭の長池徳二から張本勲、アルトマン、大杉勝男、野村克也、山崎裕之、有藤通世まで7連打。しかも山崎、有藤、さらには打者一巡して長池もホームランを放って、いきなり8点を奪い、セ・リーグの度肝を抜いた。〈人気のセ、実力のパ〉と言われた時代、セの選手にとってはお祭りでも、パの選手には実力を誇示する絶好の舞台だった。