続く第2戦、強力打線に立ち向かったのが先発の江夏だ。3安打1四球ながら球宴新記録の8奪三振。3回には池辺厳、張本、野村をいずれも空振り三振に打ち取った。
新聞記者の皮肉
飛ぶ鳥を落とす勢いの江夏だが、71年を迎えて暗雲が漂い始めていた。
5月5日、先発した江夏は不調を訴え、3回1死で降板した。脈拍が160を超えていた。診断の結果、症例の少ない心臓病と分かった。1日4箱吸うヘビースモーカー、日ごろの不摂生、豪遊が要因ともいわれた。その後も登板を続けたが、オールスターまでに6勝9敗と不本意な成績。それでもファン投票でオールスターに選ばれた。それを辛辣(しんらつ)に皮肉った新聞記者がいた。その話は江夏自身が日本経済新聞「私の履歴書」に書いている。
〈記者は「ようそんな成績で出てきたな。ちょっとお客さんが喜ぶようなことをやってみな」とたきつけてくる。自分がお客さんを喜ばせるとしたら三振しかないだろう〉
それでひらめいたのが前年を上回る9連続奪三振だった。
「緊張から逃れたい」
7月17日、西宮球場。捕手は田淵。この年田淵は腎炎のため一塁と外野で出場していた。その年初めて組むバッテリーだった。
最初から江夏は三振だけを狙って投げた。
初回、有藤、基満男、長池をいずれも空振り三振。
最も警戒していた長池だけは変化球で三振に取った。長池はカーブだと思ったボールを江夏は「フォーク」と言っている。実は、指の短い江夏がその年のキャンプで会得した新魔球。現在でいうスプリットだった。