近年、「年収の壁」についてさまざまな制度変更が実施されたり、検討されたりしています。最近で言えば、「106万円の壁」の撤廃に向けた動きが話題になり、年金制度改正法の成立により撤廃されることが決まりました。106万円の壁がなくなるなら「130万円の壁」まで働こう、と思っている人もいるかもしれません。 しかし、130万円の壁と同じ意味合いの年収の壁に「180万円の壁」があることを知っていますか。106万円の壁がなくなることを考えたときに、次に意識すべきは130万円、180万円どちらの壁なのでしょうか。 本記事では、それぞれの年収の壁の意味合いを理解しながら、180万円の壁が適用される条件などについて解説します。
社会保険加入に関する年収の壁とは?
年収の壁の中には次の3つの意味合いのものがありますが、本記事で取り上げるのはこのうち社会保険に関わる年収の壁についてです。
●税金に関わる年収の壁
●社会保険に関わる年収の壁
●配偶者手当に関わる年収の壁
社会保険に関わる年収には、106万円、130万円、180万円の3つの壁があります。はじめに106万円の壁と130万円の壁について解説します。
106万円の壁
106万円の壁は、自分が勤務先の社会保険に加入する必要があるかどうかの判断基準となる年収の境界線です。具体的には、パートやアルバイトなど短時間労働者が次の4つの要件を満たすと、社会保険に加入する義務が発生します。
●週の勤務が20時間以上
●月収が8万8000円以上
●2ヶ月を超えて働く予定がある
●勤務先の従業員数が51人以上
月収8万8000円以上を年間の額になおすと約106万円になるため、106万円の壁と呼ばれています。自分で社会保険に加入することになれば、給料から健康保険料や厚生年金保険料が天引きされます。
130万円の壁
130万円の壁は、前記した「従業員数が51人以上」以外の勤務先、つまり「50人以下」の勤務先で働いている場合において、配偶者の健康保険の被扶養者でいられるかどうか、言い換えると国民健康保険や国民年金保険料を自分で支払う必要があるかどうかの判断基準となる年収の境界線です。
配偶者の健康保険の被扶養者でいるには、年収が130万円未満である必要があります。年収が130万円以上になると被扶養者から外れて、自分で国民健康保険や国民年金に加入して、保険料を支払わなければなりません。この年収130万円という基準は、全国健康保険協会(協会けんぽ)や、多くの健康保険組合で採用されています。
180万円の壁が適用される条件とは?
では、180万円の壁とはいったいどのようなものでしょうか。180万円の壁とは、60歳以上や障がいのある人が、配偶者の健康保険の被扶養者となるかどうかの基準となる年収の境界線のことです。
前記した通り、配偶者の健康保険の被扶養者となるには、年収が130万円未満であることが原則です。しかし、60歳以上や障がいがある人は、次の条件を満たせば年収が130万円以上になっても、被扶養者になれます。
●年間収入が180万円未満
●原則として、扶養する人の年収の2分の1未満(同一世帯に属する場合)
180万円の壁は、130万円の壁と意味合いは同じですが、誰にでも適用される年収の壁ではありませんので注意が必要です。
本ケースにおいて63歳の母親が「私の場合は『180万円の壁』」と言った根拠としては、「60歳以上」であり、「扶養する人の年収の2分の1未満」を満たしているからでしょう。
それぞれの年収の壁の違いを正しく理解しよう
年収の壁は、それぞれ意味も対象も異なります。その中でも、社会保険に関わる年収の壁は、106万円、130万円、180万円の3つの年収の壁が存在します。180万円の壁は、60歳以上や障がいのある人にだけ適用される特例であり、60歳未満の年齢では適用されないため注意が必要です。
社会全体を見ると、働き手の不足が大きなトレンドとなっており、これらの年収の壁に関わる制度改正は、今後も変更が加えられる可能性が高いといえます。扶養の範囲内で働きたいと考えている人は、年齢や勤務先の規模、配偶者の加入している保険制度なども含めて正しく理解し、総合的に判断できるようにしましょう。
出典
厚生労働省 社会保険の加入対象の拡大について
厚生労働省 年収の壁について知ろう
全国健康保険協会 被扶養者とは?
執筆者 : FINANCIAL FIELD編集部
ファイナンシャルプランナー