これは暗に、「また店内で吸えるようになったよ」ということを伝えているのだ。実際、事実上の「喫煙可能スペース」を店の奥に設けている店舗は現時点ではいくらでも存在する。「制度上はダメ」「実際はOK」──その矛盾に、誰もが目をつぶっている。
処方箋は“買うための儀式”?
観光客の反応はどうか。「処方箋制度って本当に必要なの?」という戸惑いは強いものの、「紙に名前とパスポート番号を記入して、サインするだけ。これで“医師の診断”って言われてもね……」と苦笑する声も聞かれる。
処方箋制度は、むしろ「購入時のセレモニー(儀式)」に近いという見方もある。実際、新制度の導入が発表された直後の数日間こそ混乱が見られたが、それも一時的。今では多くの観光客が「何も変わっていない」と感じながら、普通に大麻を購入している。
ただし、変化がなかったわけではない。たとえば、エディブル(食用大麻製品)の販売は禁止され、一部の商品が店頭から姿を消している。だが、これも“観光地から少し離れた店舗”では普通に販売されている現実がある。
一般的に、「大麻は、お酒やその他のドラッグよりも害が少ない」という見方がある。しかし、バンコク病院のスタッフによれば、「大麻の摂取過多」で搬送される旅行者が存在しているのも確かだという。そして、そのなかには日本人も含まれる。
大麻が非合法国の日本人が大麻過剰摂取で病院に来た場合、当然、保険は適用されない。過剰摂取の場合、場合によってはICU(集中治療室)に運ばれる。医療費が高額なタイで、さらに一般病棟より高額なICUではすべて実費が求められる。そのため、日本人は大麻に気軽に手を出さず、過剰摂取には充分に注意をするべきだという意見もある。
「タイの大麻カルチャー」は終わったのか?
現地のタイ人の言葉にもあったように、大麻をめぐる制度はたしかに“後戻り”しているようにも映る。だが、筆者の見解では、それがただちに「文化の終焉」を意味するとは限らないと思える。