がん細胞に対する免疫の攻撃力を活性化する薬の効き目を大きく左右する腸内細菌を特定したと、国立がん研究センターなどの研究チームが発表した。腸内細菌が腸から離れたがんに影響する仕組みも解明し、新薬開発につながると期待される。論文が15日の英科学誌ネイチャーに掲載された。
腸内細菌「YB328株」の電子顕微鏡画像(産業技術総合研究所・国立がん研究センター提供)
薬は「免疫チェックポイント阻害薬」と呼ばれ、がん細胞が攻撃されないよう免疫細胞にブレーキがかかるのを防ぐ効果がある。様々ながん治療に使われているが、長期の効果が得られるのは患者の20%程度。効果には腸内細菌が関係すると報告されていたが、詳細なメカニズムは不明だった。
チームは、肺がんと胃がんの患者計50人から治療前に便とがん組織を回収し、阻害薬が効いている患者で増えている腸内細菌と免疫細胞を解析。効果があった患者には腸内細菌「YB328株」が多いことがわかった。マウス実験でもこの腸内細菌があると治療効果が強く出ることを確認した。
さらに、YB328株は、体内の免疫の司令塔となる「樹状細胞」を活性化していたこともわかった。活性化した樹状細胞はマウス体内でリンパ節やがん組織へ移動し、免疫効果を発揮することも確認された。
同センター研究所の西川博嘉・腫瘍免疫研究分野長(免疫学)は「免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい患者にYB328株を投与することで腸内環境が変化し、効きやすくなる可能性がある」と話す。同センター発の新興企業が2027年度後半にもYB328株を使った経口薬の治験を行う計画を進めている。
順天堂大の石川大先任准教授(消化器内科)の話「非常に価値が高い研究成果だ。メカニズムを 緻密 に解明し、一部の患者に限られていた免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を多くの人に広げられる可能性を示した」